母親の行動にパターンはあってもタイプ分けはできない
根本 それこそ高校時代の服装やメイクを否定された話じゃないけど、そういう話はたくさんあって。「似合ってない」とか「学校行くのになんで化粧が必要なの」なんて言われたら、娘からすると“否定された”と感じると思うんですけど、それって実はお母さんの“嫉妬”なんです。これには、ひとつ時代的な背景があります。まずお母さんの時代だと、高校に行けない人もたくさんいたんですよ。
M子 あ、うちの母親はまさにそれです! 当時、祖父が身体を壊して働けなくなっていたこともあって、母の実家は経済的にかなり苦しかったみたいで。母は5人きょうだいの2番目なのですが、祖母は母に「妹や弟たちもいるから、お前は中学を出たら働いて家にお金を入れてくれ」と頼んだらしいです。母はショックで毎日泣いていて、見かねた母の兄がお金を出してくれることになり、それでなんとか高校に行かせてあげられたと言ってました。
根本 そうですよね。経済的な理由もあるし、学歴については男性のほうがずっと偏重された時代ですから、「どうせ嫁に行くんだから」と選択肢を与えられなかった女性も多かったはずです。そして学歴だけじゃなくあらゆる面において、当時は“女だから”という世間からの管理、抑圧がものすごく強かった。だからそれに比べれば、M子さんは自由です。
M子 まあ、それはそうですね。
根本 そうやって母と娘、それぞれの世代の“当たり前”が大きく異なる状態で、とくに母親のほうが本当はファッションに興味があったり、もっといろいろ遊びたかったというような活発な人であればあるほど、自由に見える娘がめちゃくちゃ羨ましいんです。「あんたは好きにできていいわよね、私の頃はできなかったのよ」という嫉妬がどんどん出てきてしまうんですよ。
M子 あーー……。母は私に向かって「お母さんだって、本当は結婚しないでそのまま働いていたかった」と、ことあるごとに言っていたんですよね。家が貧乏だった話は聞いていたので、それでお金を稼ぐことに執着があるのかなと思っていたんですが、なるほど、嫉妬も大きそうですね。
根本 母親が若い頃に強い抑圧を受けていて、その鬱憤を娘にぶつけてしまうというのは決してめずらしくないのですが、ぶつけ方にはいろんなパターンがあります。ひとつは、自分が味わった我慢をそのまま娘にも強いるパターン。たとえば娘が大学進学を希望していて、父親は「いいよ」と言っているのに、母親が猛反対して専門学校しか行かせてもらえなかった、とか。
もうひとつは、叶わなかった願望を娘の人生で解消していく“ステージママ”パターン。自分が着たかった服を着せて、自分が目指したかったことをやらせて、自分はその監督役として娘をコントロールして、支配していく。ちなみにM子さんのお母さんも、どこかでボタンをひとつ掛け違えていたら、一気にひっくり返ってこのパターンになっていた可能性はありますよ。
M子 ええっ、ステージママにですか?! ……でもそうか、鬱憤の矛先が少し違っていたら、私の気持ちに関係なく母親が行きたかった学校に行かされて、母親がやりたかった仕事に就かされる、ということもあったかもしれないんですね。
根本 そうそう。他にもたくさんのパターンがありますし、どのパターンにしても、それぞれに何か決定的な要素があるわけではないんです。あくまでその母親が歩んできた数十年の結果ですから、たった一つの出来事で全く異なるパターンになることは十分にあり得ます。僕がこの連載のはじめに「母親の行動にパターンはあってもタイプ分けはできない」と言ったのは、つまりこういうことなんです。
<つづく>
イラスト/Shutterstock
構成/山崎恵
前回記事「反抗期がなかった人ほど親との関係がこじれやすい? 住む場所や家の大きさが、親子関係に与える影響とは【しんどい母の手放し方・第5回】」>>
- 1
- 2
Comment