フリーアナウンサーの住吉美紀さんが50代の入り口に立って始めた、「暮らしと人生の棚おろし」を綴ります。
前回は着物だったが、今回は、50代のファッション「洋服編」を棚卸してみたい。
子どもの頃から今に至るまで変わらず、私の洋服の”デフォルト的大定番”は、デニムである。自分で洋服を選んで着るようになる頃住んでいたアメリカでは、小学生はほぼ全員デニムを穿いていた。私も例外ではなく、デニム(その頃はジーンズと呼んでいた)が制服と言わんばかりの勢いで、多分年に350日くらい穿いていたと思う。
中高と本当の制服を着た時期が4年弱あったが、その後の学生生活は再び”Tシャツにジーンズっ子”に戻った。変わったことと言えば靴くらいで、子どもの頃はスニーカー専門だったのが、思春期からはちょっと色気を出し、革靴やブーツを合わせた。
仕事柄、社会人になってからも、あまり変わらなかった。NHKで東北に赴任していた最初の5年はテレビに出る時もすべて自前だったが、ニュースを担当する時はカメラに映る上半身だけジャケットや襟のあるものに着替え、下半身はデニムのままスタジオに座った。むしろ勤務時間のほとんど、現場で取材や撮影に出ていたため、デニムは機能面でも重宝。自分らしく動ける。
渋谷の放送センターに異動してからは、主だったテレビの出演時は衣装を貸してもらえた。そのため私服はまたもやデニムばかり。靴は思春期よりむしろ意識が下がり、「どうせ衣装に着替えるし」と頻繁にビーサンで出勤。同僚に「リゾート帰りかっ」とよく突っ込まれた。今思えばヒドイ格好だ。
と、デニムを皮膚のように纏って成人したので、デニム愛は未だに深い。ブランドものや高級品が良いというわけでなく、カットやストレッチ感や色味、そして「ここが締まって、ここが緩い」というような穿き心地についての、自分流の、強くはっきりとした好みがある。
しかし、流石に50代、デニムだけでは生きていけない。自営業になったこともあり、人前に出る場に自前の衣装で臨むことも増えた。当初は何を着たら良いのか、毎回困った。仕事内容よりも服装に悩んで憂鬱になるほどだった。
いわゆるビジネススタイルは持っていなかった。それまでに見たり触れたりしてきたスーツは、素材感もシルエットもフィット感も、まったく魅力を感じなかったからだ。ファッションビルやデパートに探しにいってみても、ピンと来た試しがない。
事務的な雰囲気が過ぎたり、リクルートスーツのように味気のなかったり、テンションが上がらないのだ。逆に、味気のありそうなものを探すと、今度は妙にガーリーだったり、乙女っぽかったりで、私の性格に合わなかった。
そんな中、50歳になる直前、とある仕事の折、いつもお世話になっているスタイリストのさかちゃんが用意してくれた衣装のスーツに、ピピッ、と私のアンテナが立った。
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