女性は子供がいるかいないかで、生きがいの持ち方や、人間関係も大きく変わってくるもの。その渦中にいるのがミモレ世代と言ってもいいでしょう。そこでミモレは、今年、『子の無い人生』(角川書店)を上梓したエッセイストの酒井順子さんにインタビューを実施。前編では、出産のタイムリミットを前にしての心理についていろいろと伺いました。後編では、子を持たなかったことで生じる様々な現実について考えていきたいと思います!

酒井順子(さかいじゅんこ) 1966年生まれ。東京都出身。高校生のときから雑誌でコラムの執筆を始める。立教大学卒業後、広告代理店勤務を経て執筆に専念。2004年に発表した『負け犬の遠吠え』(講談社)がベストセラーとなる。他に『裏が、幸せ。』(小学館)『下に見る人』(角川文庫)など著書多数。今年2月に発売した『子の無い人生』(角川書店)が新たに話題となっている。


子育てに使わなかったエネルギーを
何に注ぐか考えることが大事


酒井さんが40代になって分かったのは、女性の人生には「結婚しているかしていないか」ということより、「子供がいるかいないか」という要素のほうが深く関わってくるのだ、ということ。もちろん既婚子ナシと未婚子ナシとではその心理状態はだいぶ違うだろうが、「子ナシゆえに生じること」には共通する部分も多い。そこについても伺ってみた。

 

「一番に言えることは、子の無い生活のほうが“ラク”ということじゃないでしょうか。朝5時に起きてお弁当を作るとか、送り迎えとか、単純にそういった作業は子ナシの者にはないですよね。傍から見ていて、とにかく子育てって尋常じゃなく大変です。その代わり子アリの人は老後、確実ではないにしてもそれなりの面倒を子供に見てもらえる可能性があるわけで。だとしたら子無しはどうする!?と……。

私自身はというと、子育てにとられなかった分の力をムダに使わないようにしなきゃ……とは思ってきました。たとえば仕事を頑張るとか。人によっては、他者のためになっていないと居心地が悪いという人もいると思うので、そういう人はボランティア的なことを頑張るのもいいと思います。私はあまりそういうタイプではないんですけど(笑)、そういった生き甲斐につながることとか、子育ての代替物になる何かに力を注ぐほうが、老後になったときの焦りというか、『私は何をしていたんだろう?』みたいな後悔が、もしかしたら違うかなとは思いますね」

難しい子ナシと子アリの付き合い。
無理して会わないほうがいい。

 

そしてもう一つ、子無しゆえに生じることといえば、子アリ族との関係の変化だろう。まわりの友達がどんどん結婚し、子を生み、ライフスタイルが大きく違ってくることで、時間も会話も合わなくなり孤独感を覚えている子ナシは多い。

「子供がいるかいないかで遊び方もお金の使い方も大きく変わってくるので、やはり出産は大きな分かれ道にはなってきますよね。でも子ナシ族が「産んでなくて大丈夫なのか?」という焦りを抱いている一方で、子アリ族もそれなりに「社会に取り残されて焦る」みたいな感覚もあるみたいです。お互いにその不安を紛らわせるために、ママ友で集まったり、独身同士でつるんだり、同じ立場の者同士で集まるんだと思います。その期間が10年ぐらい続くわけですけど、それもまた私ぐらいの年齢になると戻ってきて、子のあるなし関係のない付き合いになるものですよ」

本の中では、子アリ族が子供の写真入り年賀状とそうじゃない年賀状を作っていて、子ナシ族にはそうじゃないほうの年賀状を送っていた、と知って衝撃を受けたエピソードが書かれていた。このように、お互いがいらぬ気遣いをして勝手に壁を作っている部分はないのだろうか?

 

「でもそもそも、そんなふうに『気を遣わなきゃ』と思っているうちは、離れていてもいいんじゃないかと思うんですよ。私は実際、そういう時期は子アリの友達とは会っていませんでした。単純に時間が合わない、というのもありましたし。たとえば子供がいない人は友達と夜に会いたいけど、子供がいる人は昼に会いたい場合が多い。それでどっちかが無理して昼や夜に出てきたりすると、無理をしている方に不満がたまってしまいます。私は、物理的にも心理的にも無理がいらなくなってから子アリの友達とも会うようになったので、その段階ではお互いもう変な気遣いはなくて、かえってスッと昔の関係に戻れた気がしますね。

もちろん、学生時代はあんなに仲が良かったのに……という寂しさはありました。でも実際に子育ての大変さを目にすると『ああ、これはしばらくは無理なんだな』と心底思ったし、私もそのとき年上の女性たちから『しばらくすればまた元に戻るから大丈夫』と言われていたんですよ。だから無理して子アリの友達と会おうとせず、同じ立場の人と話してました。実際、そのほうが楽しかったですしね。でも今はみんな子供が中高生になって、夜も出かけられるようになって。そうなったら、もう大丈夫です」

そうして再び会うようになった子アリの人たちとの、共通の話題とは?

「そうですね、子育てが一段落すると、今度は子アリ子ナシに共通する親の介護だとか、自分の健康の悩みだとか、そういう話題で再結集する感じです(笑)。共通の話題じゃなくも、夫との不仲とか子供の反抗期話とかは、普通に『へえ〜』と思ったり。ただ、私は自分の仕事の話はしませんね。友人達の好きな韓流やジャニーズに、私は興味がない。反対に私の仕事に、友人達は興味がない。“全て一緒”ではなくても仲良くしていられるところに、『大人になったなあ』と思います」


難しいのは仕事における
子アリと子ナシの付き合い方

40代のミモレ世代は、もう何年かすれば子供も手を離れ、再び子のあるなし関係なく付き合えるようになるとのこと。それでもそこまで子アリの人と付き合わないとなると、子ナシ族の中には本当に孤独になってしまう人も出てくるのではないか……。多少の無理をしても子アリの友達と付き合っていきたいと思った場合は、どういった姿勢が必要だろうか?

 

「それなら1対1で会ったほうがいいんじゃないでしょうか。複数で集まったとして、そのうち3人に子供がいて2人に子供がいないとかだったりすると、どうしても多数派と少数派に分かれ、どっちかがどっちかの話に合わせるということになってしまう。でも1対1だと、わりと人間としての話ができるので、どんなに立場や環境が違う者同士でも今まで通りでいられる気がします」

ただ友達同士なら、一定期間は付き合わない、または1対1で会う、といった選択肢もあるが、仕事においてとなるとそうはいかない、と酒井さんは言う。

「会社では、子供がいる人の仕事が子供のいない人にかかってくる、という状況がありがちかと思います。東日本大震災のときも、子供がいる人は子供のことが心配で仕事を放り出して家に帰って、その分を子供がいない人が負担しなきゃいけなかった、という話をけっこう聞きました。もちろん後で『ごめんね』という言葉はあったそうなんですけど、何となく溝が残ってしまったようです。震災時に限らず、いくら子供がいない人がやりたくないと言っても、時間的に自分しかできる人間がいなかったらやらざるを得ないわけですから、その辺は会社が制度として整理しなきゃいけないところなんでしょうけど……。
まあ元をたどれば、男性がもっと子育てに参加するようになったら、といところが大きいと思うんですけどね。やっぱり女性の育児負担が圧倒的に多いから、仕事の時間を削られ、結果、子ナシとの仕事量に差が生まれて溝ができるわけですから。こればかりは自分の努力や工夫だけではどうにもできないわけで、男性達の自覚がさらに求められると思います」

子を持たない世代に入ったとき
結婚観はどう変化する?


これまで酒井さんに、ミモレ世代の少し先輩として、『子の無い人生』について様々な方向から話を伺ってきた。酒井さん自身は、「私はやっぱり子育ては向いてなかったと思うので、子供を持たなかったことに対しては、それで良かったのかなと思っています」と『子の無い人生』を肯定的に捉えているが、もちろんこの先への不安はあるという。

 
 

「黙っていても誰かが助けてくれる、といった人徳のある人は別として、私の場合は、それほど性格やコミュニケーション能力に自信がありません。その場合にどう不安を解消するかといったら、やっぱりお金は必要、ということになってきます。なので結局は、『仕事を頑張るしかない』というところに行き着くんですけど……。あとは既婚未婚に限らず、友達の近くに住むこと。私はたまたま友達が全員近所に住んでいるんですけど、楽しいですよ。こんなに会わなくてもいいんじゃないかっていうくらい会ってます(笑)」

子供は持たないとしても、結婚じたいも、もうする気はないのだろうか。そこのところも伺ってみた。

「もし結婚するとしたら、介護が必要になってきたとか手術をしなきゃいけなくなったとか、そういう健康上の問題が絡んできたときでしょうね。手術するときは家族の同意書が必要ですし、入院とか介護となったときは、法律上の家族がいるかいないかで状況が相当違ってくると思いますから。だから60歳過ぎて籍を入れました、という話を聞くと、やっぱりこれは病気とか看取りとかを視野に入れてのことかな、と思います。反対に私くらいの世代だと、パートナーがいるという人は多いんですけど、籍を入れるという人は少ない。多分、今は必要性がないんでしょうね」

最後に、ミモレ世代に伝えたいことは何か、聞いてみた。

「先にも言いましたが、やっぱり、あと数年たつとすご〜くラクになる、ということですね。友達関係も戻ってきますし、何より『子供を産まなきゃいけないんじゃないか』ということを考えなくて良くなりますから。ただ、逆にそれは、数年経ったら子供が欲しくても産めなくなるということでもあります。ですから子供を産みたいという気持ちがあって、年齢的にも『まだ』『もしかしたら』と感じている人は、世間の目や自分のプライドなんかに捉われないで、精一杯ジタバタしてほしいと思っています」

ミモレ世代は一番、子ナシと子アリで溝ができやすい世代。「でも私ぐらいの歳になると、みんな子供も手を離れてきて、また元通りの付き合いができるようになりますよ」と心強い言葉を授けてくれた。

 

『子の無い人生』¥1300/角川書店
女性は未婚か既婚かよりも、子供がいるかいないかが大きく人生を左右する――。40代に入ってそのことを痛感した酒井順子さんが、2014年から手がけた雑誌の連載エッセーをまとめた一冊。既婚子ナシ族の葛藤や、子ナシと子アリの関係だけでなく、政治と出産、日本の養子事情、ひいては一人で死ぬことなど“子ナシ”にまつわるすべてを飄々と分析。また、伝統と現実の間で揺れ動く沖縄の未婚女性についての取材エピソードも興味深く、ミモレ世代必読の一冊になっている。

取材・文/山本奈緒子 撮影/山田薫