幸せは、うれしい、楽しい、心地いいと感じる瞬間の積み重ね

ファッションについてはコーディネートを工夫したり、上手に着こなしを楽しむ人が増えてきたのに、「暮らしに関しては諦めてしまっている人が圧倒的に多い」と感じている下田さん。『うちは狭いから』『子どもがいるから仕方がない』『引っ越ししたくてもできない』といった声が聞こえてきそうです。

【下田結花さん インタビュー】下田結花さんが考える<br />“美しく暮らす”ということ 後編_img0
 

「それは、『太っているからこの服が入らない』『背が低いからこのパンツは似合わない』って言っているのと同じ。ライフスタイルは自分の体型みたいなもの。もし本当にどうにかしたいならやせたり、引っ越ししたりしてでも、何かを変えなきゃいけない。それができないのであれば、現状をどうしたらよくできるかを考えたほうがいいと思うんです」

下田さんが、「今」という瞬間の大切さを痛感したのは、東日本大震災の時と、北海道に住む下田さんのお母さまの具合が悪くなった時のこと。

「東日本大震災の時、私たちはどんなに安定した暮らしでも一瞬にして崩れ去ってしまうことを目の当たりにしました。そして、プールで1500mをガンガン泳いでいたような元気な母が急に体調を崩し、寝たきりになるのではないかと思うくらい具合が悪くなってしまった姿を見て、散歩をしたり、買い物をしたり、家で料理をしてご飯を食べたりするといった何気ないことこそ、すごく貴重なことだということに気づいたんです」

療養中の下田さんのお母さまが一番喜んだのは、花やグリーンの数々。下田さんが居間に花を生けたり、ハーブの鉢植えを置いたりすると、「きれい、きれい!」と笑顔を見せてくれたそう。その時、下田さんは改めて植物の持つ力強さや、気分が沈みがちな状況にこそ、ささやかなインテリアが大切、と実感したそう。その後、下田さんのお母さまは、少しずつ元気を取り戻しています。

「幸せとは瞬間の積み重ね。生活の中に、美しい、うれしい、楽しい、心地いい、と思える瞬間をどれだけ持てるか。その瞬間を支えてくれるのが空間であり、インテリアだと思うんです。ファッションでも、赤い口紅で顔全体が明るくなったり、アクセサリーをつけてテンションが上がる瞬間ってありますよね?」

まずは今日の暮らしを“もう少し”豊かに、を考える

『心地よく暮らす――インテリアの小さなアイデア109』で紹介されているように、物の置き方を変えたり、料理の器を新しくしたり、果物を美しく盛ってみるといったささやかな行為によって、「今」をより美しく、豊かに、幸せにすることの素晴らしさを下田さんは教えてくれます。

「今、週末、来月、1年後にできることってそれぞれにあるはず。1年後にどうなっているかはわかりませんが、まずは今日の暮らしをもう少し豊かに、笑顔とともに過ごすにはどうするかを考えてみて。庭いっぱいの花園も10年後には実現するかもしれないけど、ベランダにグリーンを置くことなら今すぐにできます。みなさんはファッションの分野のコーディネートの工夫などで“基礎体力”があるはず。インテリアも知識を積み重ねればコーディネイトできるようになります。ファッションも暮らしも同じ線上にありますよ」

【下田結花さん インタビュー】下田結花さんが考える<br />“美しく暮らす”ということ 後編_img1
 

 

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『心地よく暮らす――インテリアの小さなアイデア109』  講談社刊 ¥1404
モダンリビングの編集長を長く務め、多くの家を取材し、さまざまなインテリアを見てきた著者。その著者が心地よい住まいにするための自宅マンションで行ってい るインテリア・暮らし方のアイデア集。決して大きな家でなくても、お金かけなくても、だれでもすぐにマネできそうな小さなアイデアや考え方を写真とともに 紹介していきます。実例写真があるからわかりやすい!

下田結花
1959年4月5日生まれ。ハースト婦人画報社・モダンリビング・パブリッシャー。旧・婦人画報社(現・ハースト婦人画報社)に入社。料理の単行本、マナー、メイク、着物の別冊などの編集を経て、雑誌『ヴァンテーヌ』に14年間在籍。2003年より13年間『モダンリビング』編集長を務める。現在、『モダンリビング』の全体を統括するとともに、ウェブサイトで発信。インテリアのプロから一般まで幅広くインテリアの講演、セミナーなどを行っている。

撮影/目黒智子 取材・文/吉川明子 構成/大森葉子(編集部)
 
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