「魚は大好きなんだけど、さばくのは苦手!」

かつてはそう思っていたという、料理家の栗原友さん。料理研究家の栗原はるみさんの娘で、自らも料理の道に進んだ友さんですが、ある時、料理で苦手だった魚と真正面から取り組むことを決め、片っ端から魚関係の会社に電話。唯一「面接に来ないか?」と連絡をくれた築地場外の斉藤水産で働けることになり、魚修行が始まりました。

「クリトモのさかな道 築地が教えてくれた魚の楽しみ方」は、朝日新聞デジタル&wの人気連載コラムで、その中から選りすぐって一冊にまとめたのが本書。友さんの魚修行の毎日や築地魚河岸の活気ある様子、旬の魚を解説しながら作る料理の数々が軽快な文章で綴られています。

築地の風景がよく似合う、栗原友さん(写真/笠井爾示)

春は桜エビや産卵期を迎えるホタテ、夏は鰻やお盆明けのサンマ、秋はカレイや実は夏よりもおいしい鱧、冬は松葉蟹やクエ――。大衆魚から高級魚、はたまた聞いたことも見たこともないような珍しいものまで、さまざまな魚介類が登場します。ページをめくるごとに日本近海の魚介類の豊かさが感じられ、それらが料理家の本領発揮とばかりに多彩な料理へと変わる様子にどんどん引き込まれていくこと間違いなし!

ちょうどこの時期は、どんな魚が美味しいのでしょうか?
11月に書かれたページをめくると、関鯖と並ぶ高級ブランドとして知られる、三浦半島の松輪で水揚げされた鯖を使った鯖の棒寿司や、友さんが修行していた斉藤水産の社長直伝のイカの塩辛を作っていました。

三枚におろした鯖にベタ塩をして3時間ほど寝かします。
次は酢締め用の酢づくり。三重・紀北町の道の駅で入手した限定販売の「みふね酢」と昆布に、「何か香りをつけたい!」と思った友さんは、みかん半分を皮ごと輪切りにして酢の中へ。残りの半分は絞って砂糖代わりの甘み付けとして酢に加えました。
届いたばかりのスルメイカ。真っ黒なのは新鮮な証拠だそう。
皮や吸盤をとって半日干し、冷凍しておいたワタを包丁で叩き、酒、しょうゆ、みりん、七味唐辛子を加えて混ぜ合わせ、身を浸して一晩冷蔵庫で寝かしたら完成!

友さんの楽しそうな鯖寿司づくりの様子を読んでいると、きっと挑戦してみたくなるはず。

斉藤水産の門をたたいてから約4年。魚修行に飛び込んだことがきっかけで生涯の伴侶に出会い、娘を出産した友さん。今では娘に魚好きになってもらうために食事を工夫したり、魚を使った離乳食講座を開くなど、活動の幅を広げています。この本は、ひとりの女性の人生が大きく変わりゆく様子を描いた一冊でもあるのです。

読んでよし、食べてよし、魚がもっと好きになる、素敵なエッセイ集です。

 

『クリトモのさかな道 築地が教えてくれた魚の楽しみ方』(朝日新聞出版)
栗原友著 ¥1500(税別)

PROFILE

吉川明子/出版社、編集プロダクションなどを経てフリーへ。週刊誌、雑誌、Webサイトなどで執筆、編集を行う。旅と食べることと本が好き。人生の3分の2は減量のことを考えてきた。