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『彼らが本気で編むときは、』
監督:荻上直子
出演:生田斗真、桐谷健太、柿原りんか、ミムラ
配給:スールキートス 2/25より新宿ピカデリーほかにて公開

© 2017「彼らが本気で編むときは、」製作委員会


何度も観返す映画のなかに『かもめ食堂』がランクインしているという方、多いのではないでしょうか。インテリアや食器も本当に素敵で、あの映画を観たあとすぐに我が家にもアラビア24hのお皿が仲間入りしました。その後、『めがね』『トイレット』などの作品から“癒し系”と呼ばれることも多かった荻上直子監督ですが、孤独を抱えながらも、誰かにもたれかかることでそれを解消するのではなく、自分の足でしっかり生きようとしている人たちの物語を撮る監督だなぁという印象も持っていました。その部分を突き詰めていった作品が、最新作の『彼らが本気で編むときは、』かもしれません。
 

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シングルマザーである母親の突然の家出により、ひとりぼっちになってしまった小学5年生のトモ。叔父のマキオの家に向かった彼女を温かく迎えてくれたのは、マキオの恋人で、女性への性別適合手術を受けたトランスジェンダーのリンコでした。冷たいアパートでコンビニのおにぎりを食べ続けていたトモは、整えられた温かい部屋で心づくしの手料理を食べ、本当の家族のようにリンコと過ごす時間に安らぎを感じるようになっていきます。そしてリンコもまた、彼女の母親になりたいという思いを募らせていくのです。
 

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LGBTを題材にしている作品だと聞いたときは、主人公が自身のセクシュアリティに思い悩み、幸せをつかむために苦難の道を歩くような映画かと思っていましたが、その予想はいい意味で裏切られました。リンコは理解ある朗らかな母親に育てられ、介護士として真面目に働きながら、恋人のマキオはただリンコをリンコとして受け止めている。声高に偏見について叫ぶのではない、その“当たり前”のありようこそ、多様性が求められる今、とても必要なことなのではないかと思います。

母になりたいリンコを中心に、母である前に女性であることを優先するトモの母、子どもの性を受け止めたリンコの母、自らの価値観における“普通”以外を認められないトモの友人の母も登場し、様々な母の立場と思いを通して母性について考察した映画にもなっていると感じました。

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荻上作品には欠かせない飯島奈美さんの料理も、もちろん登場。からあげやかぼちゃサラダといった家庭料理が並ぶテーブルを囲む(瓶ビールが妙においしそうでした!)、特別なことは起こらないからこそ特別な家族の時間が、とても愛おしいものとして描かれています。タイトルの意味は、ぜひ映画館で確認してみてくださいね。

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PROFILE

細谷美香/1972年生まれ。情報誌の編集者を経て、フリーライターに。『Marisol』(集英社)『大人のおしゃれ手帖』(宝島社)をはじめとする女性誌や毎日新聞などを中心に、映画紹介やインタビューを担当しています。
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