『メットガラ ドレスをまとった美術館』
監督:アンドリュー・ロッシ
出演:アナ・ウィンター、アンドリュー・ボルトン
配給:アルバトロス・フィルム 4/15よりBunkamuraル・シネマほかにて公開

©2016 MB Productions, LLC


『ぼくと魔法の言葉たち』『作家、本当のJ.T.リロイ』など多彩なドキュメンタリーの良作が続々と公開されているこの春、ファッションとアートを題材にした『メットガラ ドレスをまとった美術館』を紹介したいと思います。「メットガラ」とは、メトロポリタン美術館で開催される、美術館服飾部門の活動資金を集めるためのイベントであり、“ファッション界のアカデミー賞”とも呼ばれている、マンハッタンの恒例行事。15年に行われた企画展「鏡の中の中国」開催までの準備期間にカメラが向けられ、華やかなセレブたちが歩くレッドカーペットの裏側はこんなにも地道で大変なことに! という驚きに満ちた作品になっています。

主催者は『プラダを着た悪魔』でもおなじみの『VOGUE』編集長アナ・ウィンター。スタバ片手に常に即断即決、もしも上司だったら……と想像すると震える厳しさですが、アートとファッションとビジネスをバランスよく束ねていく姿は、さすがアナ様! といった鮮やかさ。ちなみに“ドレスを着たダース・ベーダー”とも呼ばれる彼女ですが、この映画でも愛娘には甘~い表情を見せています。アナの指名で自宅にカメラを入れることを許されたというこの監督、なかなかのツワモノではないでしょうか。

そしてもうひとりの主人公は、11年の回顧展『アレキサンダー・マックィーン/野生の美』を手がけて脚光を浴びた服飾部門のキュレーター、アンドリュー・ボルトン。服飾部門とアジア美術部門の共同開催だけに政治的にデリケートな問題も顔をのぞかせ、あっちもこっちも譲れないこだわりを主張しはじめることに。ボルトンは少年時代に芽生えたファッションへの情熱を力に変えて、「どないせーっちゅうねん!?」的シチュエーションを、アナや、芸術監督を務めるウォン・カーウァイとも手を携えながら乗り切っていきます。

もちろん、ふわとろオムレツみたいでおしいそう(!?)と話題を呼んだリアーナの黄色いドレスやら、“人間たいまつ”と化したサラ・ジェシカパーカーの二度見必至のかぶりものやら、セレブたちが着こなすファッションも見応え十分! 働く者たちへのエールともいえるお仕事ムービーであり、ファッションはアートなのか? 西洋から見た東洋、オマージュと文化の盗用の違いとは? といった題材が多角的に捉えられた、どの視点から観ても楽しめるドキュメンタリーです。

 

PROFILE

細谷美香/1972年生まれ。情報誌の編集者を経て、フリーライターに。『Marisol』(集英社)『大人のおしゃれ手帖』(宝島社)をはじめとする女性誌や毎日新聞などを中心に、映画紹介やインタビューを担当しています。
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