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五感を磨く

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ローソクの明かりの下に入るお風呂は至福の時間。モノを持たないドミニックさんだが、ローソクだけは多く持っているという。

ムダを削ぎ落とし少ないモノで豊かに暮らすということは、機能や効率だけを追求することではありません。必要な贅沢、というものもあります。そこで私はモノ選びにおいて、“五感”というものをとても大切にしています。五感を意識していれば、“今”を生きられるからです。

ですから私が持っている最小限のモノたちは、使いやすいだけでなく、ずっと触れていたくなるような肌触りの良いものばかりです。たとえばスープもパスタも丼ものも入れられる万能なボウルですが、私はたった一つの漆のボウルを愛用しています。手で持ったときに伝わってくる温もり、唇にあたる柔らかい感触……、漆より素晴らしい素敵な食器はないと思えるほどです。

とはいえ五感を磨くものでも、多く持ってしまうことはしたくありません。そこで私は、“一感”につき一アイテム、と決めています。視覚にはローソク、触覚にはタッチムートン、嗅覚にはお香……というように。そんな私の毎日の楽しみは、お風呂にローソクとお酒を持って入ること。電気はつけません。五感だけが研ぎ澄まされる、とてもリラックスできて満たされるひと時です。こういった贅沢な時間は努力して作らないと、人生はあっという間に終わってしまうもの。だから私は、時間を奪うモノをできる限り持たないのです。


ドミニック・ローホー
著述家。フランス生まれ。ソルボンヌ大学で修士号を取得し、イギリス、アメリカ、日本の大学で教鞭を取る。様々な国に移り住む中で、モノを持たず豊かに暮らす「シンプルライフ」を確立。それを本にまとめた『シンプルに生きる』(講談社+α文庫)がベストセラーに。他に『シンプルリスト』『99の持ちもので、シンプルに心かるく生きる』(ともに講談社)など著書多数。また禅寺や墨絵を通して日本の精神文化に理解が深いことでも知られる。


〜次回は「ルール化することでムダを省く」 6月20日公開予定です〜

第一回「完璧主義ではなく快楽主義を目指す」はこちら>>
第二回「良いものは高いものとは限らない」はこちら>>
第三回「「少ない」「小さい」は快適だと知る」はこちら>>
第四回「「ノーセカンドチョイス」と「ワンアクション」が豊かな時間を生む」はこちら>>
第五回「バードウォッチングならぬバッグウォッチング」はこちら>>

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取材・文/山本奈緒子 構成・写真/大森葉子(編集部)