『天使の入江』
監督:ジャック・ドゥミ
出演:ジャンヌ・モロー、クロード・マン
配給:ザジフィルムズ 7月22日よりシアターイメージフォーラムにて公開
©ciné tamaris 1994


ファミリー向けの映画が揃うこの季節。夏休み気分を盛り上げるハリウッド大作も楽しみだけれど、ふらりとひとりで特集上映に足を運ぶ時間も贅沢なもの。バカンスに出かけられずとも、シアターイメージフォーラムで上映されている『ドゥミとヴァルダ、幸福についての5つの物語』が、極上の大人の夏休みを約束してくれます。

『ラ・ラ・ランド』でオマージュを捧げられたことも記憶に新しいミュージカル『ロシュフォールの恋人たち』などで知られるジャック・ドゥミ監督。彼の妻であり“ヌーヴェル・バーグ”の祖母と呼ばれ、現在も精力的に活動するアニエス・ヴァルダ。見つめあうドゥミとヴァルダがデザインされたフライヤーも愛らしくて、それを手にするだけでも心浮き立つこの特集上映は、ふたりの作品をスクリーンで楽しめるまたとない機会です。

なかでもジャック・ドゥミ監督の長編第二作目にあたる『天使の入江』は、劇場正式初公開となる作品。舞台となっているのは、まばゆい陽光が降り注ぐニースの“天使の入江”と呼ばれる場所に立つカジノ。大金を得た真面目な銀行員と、ギャンブル好きなわけあり美女が出会ったことで、物語が動き出します。ギャンブルのパートナーとなり、ベッドもともにしたふたりが向かう先は破滅か、それとも――。

硬質な色香を漂わせてファムファタールを演じるのはジャンヌ・モロー。太陽の下で白く発光しているかのようなブロンドも、挑みかかってくるような強いまなざしも、すべてがあまりにもゴージャス。ピエール・カルダンの華やかな衣装に身を包んだジャンヌ・モロー(無駄のない背中のシルエット!)は、思わずひれ伏したくなるほど美しい! ギャンブルのように、危ういとわかっているのに引き込まれずにはいられない甘美で退廃的な女の魅力が、スクリーンからあふれてくるかのようです。

この特集上映では『ローラ』『ジャック・ドゥミの少年期』『5時から7時までのクレオ』『幸福(しあわせ)』のほか、アニエス・ヴァルダが手がけたMiuMiuのショートフィルムプロジェクト“女性たちの時間”で製作された短編『3つのボタン』も同時上映。珠玉の作品を映画館で観られる幸福に浸ってください。 

PROFILE

細谷美香/1972年生まれ。情報誌の編集者を経て、フリーライターに。『Marisol』(集英社)『大人のおしゃれ手帖』(宝島社)をはじめとする女性誌や毎日新聞などを中心に、映画紹介やインタビューを担当しています。
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