大和さんは、18歳でプロの漫画家としてデビューし、『はいからさんが通る』『あさきゆめみし』『N.Y小町』などの数々の名作を生み出し、今も「BE・LOVE」で『イシュタルの娘〜小野於通伝〜』を連載中です。そんな大和さんは、どのような時を重ねてきたのでしょうか。後半ではその生き方や、作品に込めた思いに迫ります。
仕事をするのは当たり前
でも、自分の好きなことをして生きていきたい
『はいからさんが通る』の主人公・花村紅緒は、紆余曲折を経て青年軍人の伊集院忍と結ばれますが、ほどなくして忍はシベリアに出兵し、行方不明となります。戦死公報が届いて未亡人同然となった紅緒。さらには伊集院家が没落しかかっていることに気づき、家を支えるべく働くことを決意します。大正といえば、女性たちの社会進出が増えて職業婦人が登場した時代。紅緒は出版社の雑誌記者、親友の北小路環も新聞社の婦人記者として働きはじめます。
かつて環が女学校時代に「わたしたちは殿方にえらばれるのではなく、わたしたちが殿方をえらぶのです」と言ったように、恋も仕事も自分で選び取る先進的な女性として描かれた紅緒と環。大和さんはどのような思いで二人の女性を描いたのでしょうか?
「当時は青鞜運動などの女性解放運動があったので、やはり登場人物にも仕事を持たせようと考えました。仕事を持った方が、彼女たちに主体性が出ますしね」
北海道出身で、18歳で漫画家デビューした大和さんにとって、働くのは当たり前のことだと感じながら育ってきたと振り返ります。
「北海道には開拓の歴史があり、男女関係なく働いてきた土壌があります。母も仕事を持っていましたし。でも、私は仕事を見つけて働くというよりも、漫画家になりたくてなりました。仕事というよりは自分の好きなことをして生きていきたいという気持ちの方が強かったですね」
もし自分が明日死んだとしてこれでいいの?
どうせやらなきゃいけないなら、少しでもいいものを
18歳から漫画を書き続け、20代後半で「はいからさんが通る」を発表した大和さん。デビューから休みなく描き続けていたせいか、30代前半に描くことが嫌になってしまった時期があったと振り返ります。
「燃え尽きていたんでしょうね。本当に描きたくないなと思いながら描いていた時期がありました。かといって、漫画家をやめるわけにもいきません。そういう時期のものはいい作品にはならなくて……。でも、もし明日自分が死んだとして、『これが最後の作品になってしまったら私はこれでいいの?』と突き詰めて考えてみたところ、もうちょっとちゃんとやろうという気持ちになりました。どうせやらなきゃいけない仕事なら、少しでもいいものにしたいじゃないですか。それからは、『これなら飽きずに描けそう』というテーマを選び、だましだまし描き続けています(笑)」
39歳で結婚し、45歳で出産したという大和さん。そのため、40代は「何も思い出せない」ほど多忙な時期だったとのこと。
「今でこそ40代での出産は増えていますが、私はかなりの高齢出産。なのに、編集者たちは『仕事しますよね?』っておかまいなしに仕事を入れてくるし(笑)、とにかく我を忘れた40代でした」
そんな大変な時期も乗り越えて、昨年画業50周年を迎えた大和さんに、ミモレ世代へのアドバイスをお聞きしました。
「今の40代女性って20代とそう変わらないくらいなんですけど、その先の50代を考えると大事な時期。まだまだこれからという見方もできますし、実際そうではありますが、老いの始まりでもあると思うんです。体はしっかりメンテナンスをした方がいいですし、なんでも『自分が!』じゃなくて、一歩引いて人間として経験を積み重ねる時期ではないでしょうか」
<映画紹介>
劇場版『はいからさんが通る 前編 〜紅緒、花の17歳〜』
今までにもTVアニメ、実写映画、舞台化されてきた不朽の名作『はいからさんが通る』が、劇場版新作アニメとして登場! 花の浪漫・大正時代を舞台に、おてんばな女学生・紅緒が、許婚の青年軍人・忍に反発しながらも、少しずつ少尉に惹かれていく姿を描きます。前後編の二部作である本作は、はじめて原作のラストまで描かれることから、注目が集まっています。
<イベント情報>
「はいからさんが通る」展 ~大正 乙女らいふ×大和和紀ワールド!~開催!
『はいからさんが通る』の原画とともに大正~昭和初期の女学生や職業婦人などの女性文化を当時の資料から紹介。さらに大和和紀の画業を『あさきゆめみし』『ヨコハマ物語』『イシュタルの娘』などの代表作や貴重な初期作品も含む、原画約200点を公開。
■会期:2017年9月29日~12月24日
■会場:弥生美術館(東京都文京区弥生2-4-3)
■料金:一般900円/大・高校生800円/中・小学生400円(竹久夢二美術館もご覧いただけます)
※詳細は、弥生美術館・竹久夢二美術館の公式サイトをご覧ください。
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