『ドリーム』
監督:セオドア・メルフィ
出演:タラジ・P・ヘンソン、オクタヴィア・スペンサー、ジャネール・モネイ
配給:20世紀フォックス映画 9月29日よりTOHOシネマズ シャンテほかにて公開ⓒ2016Twentieth Century Fox
仕事に家のことにと忙しい毎日を送っているミモレ世代のなかには、映画を観る時間を確保するのはなかなか難しいという方も多いかもしれません。映画館に足を運べるのは年に数回だけ、だから絶対に良作に出会いたい! という方におすすめしたいのが有人宇宙飛行計画を支えた黒人女性たちの知られざる実話を描く『ドリーム』。きっと気持ちよく心が動いて泣いて笑って、映画館を出る頃には明日へのエネルギーがたっぷりとチャージされているはずです。
舞台となっているのは、人種差別が色濃く残る60年代初頭のヴァージニア州。NASAラングレー研究所では多くの黒人女性たちが、ロケット打ち上げのために必要な計算主として働いていました。優秀な頭脳を持つ彼女たちでしたが、黒人女性には“前例”がないという理由で、キャリアを築いていくことは夢のまた夢。管理職への昇進を希望しているけれど、ままならないドロシー。技術部への転属が決まりながらも、エンジニアへの道は閉ざされているメアリー。宇宙特別研究本部に配属されたものの、白人男性だけの職場で理不尽な思いをしているキャサリン。働く黒人女性として生きていくことが今よりもずっと困難だった時代、妻でもあり母でもある彼女たちはあくまでも仕事への愛情と実力を武器に、現実をひとつひとつ変えていくのです。
ウィル・ファレルの音楽にあわせて朗らかなヒロインたちの日常がテンポよく、ユーモラスに描かれているだけに、心の叫びが描かれるシーンが鮮烈な印象を残します。トイレさえも白人と黒人に分けられ、キャサリンが書類を片手に小走りで向かう先は何と約1キロも先。席を外していることを叱責された彼女が理不尽な環境に対する怒りをついに爆発させるシーンでは、涙を抑えることができませんでした。
映画を観たあとで手に取った、原案となっているノンフィクション『ドリーム NASAを支えた名もなき計算主たち』(ハーパーコリンズ・ジャパン)には、NASAで働きはじめるまでのストーリーも綴られていて、乗り超えていった壁の高さをより深く理解することができました。解説に“原題であるHidden Figures=隠された人たちというよりも、Unseen Figures=見出されなかった人たち、というほうがふさわしい”と書かれているように、この映画をきっかけに彼女たちの奮闘にスポットライトが当たったことは、現代を生きる女性たちに(理系の分野で活躍すること夢見ている世界中の女の子たちにも!)大きな勇気というバトンを引き継いでくれる出来事だと思います。
PROFILE
細谷美香/1972年生まれ。情報誌の編集者を経て、フリーライターに。『Marisol』(集英社)『大人のおしゃれ手帖』(宝島社)をはじめとする女性誌や毎日新聞などを中心に、映画紹介やインタビューを担当しています。
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