【ゴッホの一生を絵本でたどる】ゴッホの心、創作への想い、耳切事件から最期まで_img0
『ぼくはフィンセント・ファン・ゴッホ』林綾野・さく たんふるたん・え

展覧会制作に取り組みながら、画家の人柄、食の嗜好など研究している林綾野さん。女性誌で展覧会の紹介記事執筆も数多く担当しています。その林さんが、このたび『ぼくはフィンセント・ファン・ゴッホ』を上梓。絵本作家・たんふるたんさんとゴッホの一生に挑みました。


読者の方々にとって美術との出会いになれば。


林さんはこれまでも『ゴッホ 旅とレシピ』でゴッホが住んだ土地を訪ね、その地の料理を再現しています。今回、ゴッホの一生を絵本で描きたいと思ったのはどうしてでしょうか。
「絵本という手に取りやすい形にすることで、読者のみなさんにとって、この本が「美術との出会い」になってくれればと思いました。お子さんにとっては美術の「ファーストアートブック」になったら嬉しいなと思います。
ゴッホはたくさんの手紙を残しましたので、彼の心情をそれらから感じることができます。絵が素晴らしいことはよく知られていますが、ゴッホのまっすぐな想いや、芸術への愛をこの画家が好きなみなさんと、再確認したいというか、共有したいと思ったのも理由のひとつです」


画家を人として身近に感じ、ひとつのストーリーとして受け入れてもらえたら。


「美術館での展覧会制作のお手伝いをする仕事に携わるようになってから、みなさんに美術をより身近に感じていただける方法を模索するようになりました。色々模索した末、「食」という側面から画家を紹介できないかということで、「画家の食卓」シリーズに至りました。
そんなわけで、食、暮らし、つまり人としての画家の側面をご紹介する活動に取り組んできました。
画家をより身近に感じてもらいたいというのが、ずっと核となるコンセプトでしたので、食や暮らしという断片だけでなく、まとまったひとつのストーリーとして画家の人生そのものをご紹介できる形がないかと考えた時に、「絵本」という形式が浮んできました。
大人にもお子さんにも手に取ってもらえ、気軽にページをめくっていただきながら、画家や絵に興味を持っていただければと。
興味が膨らむようであれば、本物の絵を観に行ったり、画集に手を伸ばす方もいらっしゃるかもしれない。ともかく美術と触れ合うきっかけになればいいなという思いはあります」


ゴッホの一生を絵本にまとめる際に難しかったことは?


「ゴッホの人生は37歳という短いものでした。多くの手紙を残したため、彼についての情報は比較的たくさんあるわけです。限られたページの中で、どのエピソードをみなさんにお伝えすべきか、それを絞り込むのは大変でした。
さらに、手紙や研究書など、ゴッホにまつわる資料にあたっていますと、ゴッホの世界にどんどんと引きずり込まれていきます。まわりの人とうまくコミュニケーションができないけれども、純粋で、全く悪気のないゴッホ。一生懸命、生きているのですが、色々うまくいかなくて、悲しい想いをしたり、やり場のない気持ちに陥る……そんなゴッホに資料を通じて触れていると、自分の気持ちもなんだかどーんと沈んできてしまうことがあります。よくも悪くも、ゴッホのオーラの大きさに飲み込まれてしまうので、そこから抜け出して、冷静にストーリーをまとめるのには少し苦労しました」


本書から少しご紹介します。

【ゴッホの一生を絵本でたどる】ゴッホの心、創作への想い、耳切事件から最期まで_img1
オランダで牧師の家に生まれたゴッホは、兄弟姉妹に囲まれ自然の中で育ちました。
【ゴッホの一生を絵本でたどる】ゴッホの心、創作への想い、耳切事件から最期まで_img2
27歳で画家を目指すようになるまで、誰かの役に立ちたいと暗中模索していました。
【ゴッホの一生を絵本でたどる】ゴッホの心、創作への想い、耳切事件から最期まで_img3
ひたすら創作に取り組む日々。

37歳で突然の最期をむかえる日までをたどります。


絵本を読んでいただいたら、絵もぜひ見ていただきたい。


「ゴッホに限らないのですが、芸術家たちは人生をかけて作品を残したのではないかなと思いますし、ゴッホの絵には彼の人生が詰まっています。
絵本を読んでいただき、ゴッホの人生に何か感じていただけることがありましたら、その想いを胸に、今度は「絵」を見ていただきたいですね。さらに何かを見つけていただけたら本当に嬉しいです」


ゴッホ作品に出会える展覧会
ゴッホ展 巡りゆく日本の夢

東京都美術館 2017年10月24日(火)~2018年1月8日(月・祝)

会期中の関連イベント
★こどもプログラム★
紙芝居で知る画家のおはなし
「ぼくはフィンセント・ファン・ゴッホ」

文:林綾野  絵:たんふるたん
演者:庄崎真知子(劇団 銅鑼)

日時:11月5日(日)、11月12日(日)
   各日2回実施(11時~、14時~) 場所:東京都美術館 1階 アートラウンジ
定員:30名程度
参加費:無料

 

【ゴッホの一生を絵本でたどる】ゴッホの心、創作への想い、耳切事件から最期まで_img4
 

『ぼくはフィンセント・ファン・ゴッホ』
さく・林綾野 え・たんふるたん
¥1800(税別)

夢中になって描き続けた10年間はどのようなものだったのか。旅に生き、弟テオに心のうちを語り続けた一生を林綾野とたんふるたんが描く。


体裁 B24取判(188×168㎜)64ページ、オールカラー、ハード・カバー

 

著者プロフィール

林綾野(はやし・あやの)
キュレーター、アートライター。美術館での展覧会企画、美術書の企画、執筆を手がける。新しい美術作品との出会いを提案するため、画家の芸術性とあわせてその人柄や生活環境、食の嗜好などを研究し、紹介する。これまで手がけた展覧会は「パウル・クレー展 線と色彩」「ピカソとクレーの生きた時代」「熊谷守一展 画家がみつけた小さいいのち 豊かなこころ」など。主な著書に『画家の食卓』『フェルメールの食卓 暮らしとレシピ』『ロートレックの食卓』『セザンヌの食卓 色とりどりのりんごたち』『ゴッホ 旅とレシピ』『モネ 庭とレシピ』『熊谷守一 画家と小さな生きものたち』(以上、講談社)、『浮世絵に見る江戸の食卓』(美術出版社)などがある。

たんふるたん
絵本画家、挿絵画家。水彩、ドローイングによるやわらかな表現で、絵本をはじめとする書籍、装幀、雑誌などでイラストレーションを手がける。画家としての仕事のほかに、広告のアートディレクション、タイポグラフィー、ブランドロゴなどデザインの仕事にも従事している。

【林綾野、たんふるたん 好評既刊】
『新装版 ぼくはクロード・モネ 絵本でよむ画家のおはなし』
『新装版 ぼくはヨハネス・フェルメール 絵本でよむ画家のおはなし』

(この記事は2017年10月27日時点の情報です)
構成/島村理麻(講談社)