『シェイプ・オブ・ウォーター』
監督:ギレルモ・デル・トロ
出演:サリー・ホーキンス、マイケル・シャノン、リチャード・ジェンキンス、ダグ・ジョーンズ、マイケル・スタールバーグ、オクタヴィア・スペンサー
配給:20世紀フォックス 3月1日よりTOHOシネマズ シャンテほかにて公開
©2017 Twentieth Century Fox

アカデミー賞に向けて続々と候補作が日本でも公開されるこの時期。前回の『スリー・ビルボード』に続いて、作品賞、監督賞をはじめ最多13部門にノミネートされている『シェイプ・オブ・ウォーター』を紹介します。監督はメキシコ出身のギレルモ・デル・トロ。スペイン内戦を背景にしたダーク・ファンタジー『パンズ・ラビリンス』などで知られ、『パシフィック・リム』では怪獣やロボットへの愛を炸裂させていた、日本が大好きなオタク監督でもあります。この最新作でも監督は自分が愛しているものや、窮屈な社会への思いをたっぷりと描き出しました。

政府の極秘研究所で清掃の仕事をしているイライザは、幼い頃の経験によって声が出せなくなった女性。アパートと仕事場を規則正しく往復する日々を送っていましたが、研究所に運ばれてきた不思議な生き物に心惹かれた日から、彼女の毎日は変わっていきます。うろこを持つ半魚人のような彼が生体解剖されて政府に利用されると知ったイライザは、隣人や仲間を巻き込んでどうにか救い出そうと計画しはじめるのです。

中年女性と半魚人の恋と聞くとロマンチックからはかけ離れた設定に思えるかもしれませんが、これは狂おしいほどに極上のラブストーリー! 言葉を持たないふたりが心を通わせて踊るシーンは涙が出るほど美しく、地味でか細くて何だかおどおどしているイライザが微熱を帯びたようにうっとりとした表情を見せるとき、映画は一気に甘美な調べを奏ではじめます。ミュージカル映画が大好きな彼女はただおとぎ話を夢見る無垢な少女ではなく、性欲もある女の人として描かれていて、しかもそこにユーモアが漂うあたり、成熟したラブストーリーでもあります。

“声なき者”であるイライザ、彼女を姉のように世話してくれる同僚の黒人女性、ゲイであることを隠しているアパートの隣人は、この世界のはじっこで生きることを余儀なくされているマイノリティたちです。舞台となっているのは冷戦下のアメリカですが、彼らが抱えている苦しみはまさに不寛容な現代と響きあうものだと言えます。

 

『パディントン』のブラウン夫人としてもおなじみのサリー・ホーキンス、『ドリーム』のオクタヴィア・スペンサー、イライザを追いつめるマッチョで恐ろしい軍人にマイケル・シャノン(出てくるだけで醸し出される不穏さはもはや職人芸!?)とキャスティングもパーフェクト! 監督によるとイライザが住むアパートの壁紙は、北斎が描いた鯉のうろこからとられているのだとか。水をモチーフにブルーを基調とした美術などディテールまでたっぷりと愛情が込められた、大人のためのおとぎ話です。

 

PROFILE

細谷美香/1972年生まれ。情報誌の編集者を経て、フリーライターに。『Marisol』(集英社)『大人のおしゃれ手帖』(宝島社)をはじめとする女性誌や毎日新聞などを中心に、映画紹介やインタビューを担当しています。
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