20代から西欧の三ツ星店で修業し、そこから南米に渡って「食」を追究してきた太田哲雄さん。さまざまな食の現場を通じて、体感したこととは? また日本人が向き合うべき課題についても、率直な意見をお聞きしました。

太田哲雄 (おおた てつお) 1980年、長野県白馬生まれ。19歳で伝手もなくイタリアに渡って以降、料理人として、イタリア、スペイン、ペルーと3ヵ国で通算10年以上の経験を積み、2015年に日本に帰国。イタリアでは星付きレストランからミラノマダムのプライベートシェフ、最先端のピッツァレストランで働き、スペインでは「エル・ブジ」、ペルーでは「アストリッド・イ・ガストン」などに勤務。現在は、料理をする傍ら、アマゾンカカオ普及のため幅広く活動している。


「料理を通じて社会に働きかける」という取り組み


僕は20代から30代にかけて海外に渡り、技術先行型の職場で多く働いてきました。「頂点を見たい」という思いからスペインの『エル・ブジ』に行きましたが、“液体窒素”や“スプーマ”など革新的な技術が出て、「今後、料理界でこれ以上に面白い変化はそう起きないな」と感じたんです。「これから料理は素材を大切にする“原点回帰”の方向にUターンし、また社会的な活動を視野に入れて料理することが主流になるんじゃないか」。そう考えるなかで出会ったのが、ペルーのガストン・アクリオという料理人です。彼は貧困層の人々のために学校を作って料理を学ばせ、海外で修業をさせ、帰国した若者たちにペルーの料理界を盛り立ててもらうなど、料理を通じて社会に貢献する活動を行っています。彼のもとで働き、「食を通して社会を変える」という取り組みに刺激を受け、「自分もこのような形で人と繫がり、社会に関わりたい」という想いが強くなりました。こういった取り組みはペルーのみならず、世界全体でも以前から行われているのですが、最近になってようやく日本でも社会的な取り組みを行うシェフが増えてきて、世界の流れが日本に届き始めたなと感じています。

カカオの白い果肉を煮詰めたもの。ハチミツのようなねっとりした液状で、フルーティな味わいが口の中に広がります。「カカオってフルーツなんだ」とわかるはず。
カカオ豆を、一週間くらい熱を加えながらゆっくり溶かした塊。華やかな香りが鼻をくすぐります。これをお湯で溶いて飲むと、「カカオショー」になります。

 

アマゾンのカカオ村の発展に繋げるビジネス


僕が今、取り組んでいるのは、アマゾンの“カカオ村”で採れるカカオの恵みを、村に還元するという活動です。カカオ村では、村人のほぼ全員がカカオに携わる仕事をしていて、クリオロ種という最高品種のカカオを丁寧に育てているのですが、採れたカカオをうまく活用できていないため、村がまったく潤っていないのです。僕は日本で活躍しているシェフたちのもとへ足を運んで、村との出会いやカカオの食材としての可能性、カカオを軸にしたビジネスプランを説明し、興味を持ってくれた人に村のカカオを卸すことにしました。カカオは乳脂肪分や砂糖を加えることでチョコレートになりますが、そもそも果物なので、チョコレートに加工せずとも、種や果肉、皮などを料理に使うことができるのです。イタリアンやフレンチだけでなく、日本料理の店などでも使っていただいています。このビジネスの輪を広げていき、利益をカカオ村の人々に還元したい。それもただお金を渡すのではなく、工場や村の設備など本当に彼らが必要としているモノに投資し、村の発展に繫がる仕組みが作れたらと思っています。

ペルーは日本人にとって、あまりなじみのない国かもしれません。しかし実は食材がとても豊かで、食材本来のおいしさに気づかせてくれる国のひとつ。僕がペルーに興味をひかれたのも、そこがポイントでした。現地に足を運び、いろいろな食材を口にしてみましたが、品種改良や交配をされていない食材は、クリアな味わいで舌が疲れません。「人間の身体には、こうした原種の味が適しているんだな」と実感しました。またアマゾンでは、アトピーやアレルギーを持った子どもに出会ったことがないんです。それにはやはり、日ごろあれこれ手が加えられていない食材を摂っていることが関係しているのではないかと考えています。

ご自身も小さなお子さんがいらっしゃる太田さん。子供の未来のためにも食の環境を改善していきたいといいます。


食べることだけでなく、食材にももっと関心を


日本、とくに東京はレストランの軒数が多く、おいしいところもたくさんあります。予約が取りづらいレストランで食事をし、たくさんのお金を費やすことがステイタスになっている。しかしこの現状が続いても、日本の食に未来はありません。
優れたガストロノミーレストラン隆盛の一方で、フードロスや食材の自給率の低さなど、問題はたくさんあります。日本人は、食べることには関心が高いのですが、食材への関心が低いですね。オーガニックや有機の食材を買っていても、その内容をよく分かっていない人が多い。この食材はどこから来ているのか、どんな環境で育てられたのか。普段から当たり前のように食べている食材を、今一度見直して、きちんと知るという意識を持ってほしいなと思います。また僕ら料理人も、現場に携わっているからこそ分かる、食材や食材を取り巻く環境の話を、積極的に発信していくことが必要だと考えています。

「料理で社会を変えていく」という世界の“今”が、日本の“今”になるのには、まだまだ時間がかかると思います。でも僕は、食には人の心を豊かにする力があると信じています。一人一人、目の前に提供される食事だけでなく、食材そのものにも関心を持って向き合う。日本がそんな社会になるよう、働きかけ続けたいと思います。

 

<イベント情報>
出版記念&チャリティーパーティー開催!

タベアルキストととしてグルメ業界で有名なマッキー牧元さんを聴き手に迎え、太田さんからカカオの産地アマゾンのリアル、美味しさのプロセスをお伝えするパーティが開催されます。当日は、太田さんのカカオを愛する人気シェフたちが、スペシャルなメニューでお出迎え、銘酒・八海山やビールを提供予定。ご興味のある方は是非ご来場ください!

申し込みはこちらから>>

<日時> 2018年3月25日(日) 
●昼の部 12:00~ 開場11:45/閉会14:30
詳細はこちら>>


<新刊情報>
グルメ界で話題騒然のシェフがおくる
笑いと勇気と感動のエッセイ

『アマゾンの料理人 世界一の“美味しい”を探して僕が行き着いた場所』
太田哲雄 著 1500円(税別) 講談社刊 


取材・文/木下千寿 撮影・構成/片岡千晶(編集部)