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三谷幸喜さん、私を舞台の世界に引き込んでくれたのはなぜですか?【青木さやか対談】

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青木さんは僕の中での“飛び道具”。
いつも必死で、だから面白い


青木:私が舞台の世界に足を踏み入れたのは、2004年に三谷さん作・演出の、戸田恵子さんの一人芝居『なにわバタフライ』を拝見したのがきっかけで。あまりに感動してしばらく椅子から立ち上がれなかった。今でもあの感覚は覚えています。だから、どうしてもその感動を伝えたくて、当時私がレギュラー出演していた『ウチくる!?』で三谷さんにお会いした時に「私もやります!」って言ったんです。

三谷:あれは怖かった。青木さんがあまりにも真剣なので、断ったら何をされるかわからない恐怖がありました(笑)。

 

青木:何かしそうで何もしないのが私です(笑)。 三谷さんは「『なにわバタフライ』は無理だけど、5年後にご一緒しましょう」と言ってくれて。そうしたら本当に5年後、『桜の園』の舞台の話をくださった。嬉しいを通り越して驚きました。

 

三谷:青木さんて、まだ話が全然進んでいないのに「来年、私、三谷さんの舞台に出ます」とか言うじゃないですか。この人はどうかしていると、いつも思う(笑)。キャスティングしないわけにはいかない。それでここまで来ました。とはいえ、僕に恩を感じる必要は一切ないです。最終的には、舞台に出てもらうのは僕の作品のためですからね。僕が出てほしいと思ったから出てもらった。本気でいやだったら、どんな手を使っても拒否しますから。お芝居のアドバイスにしたって、舞台の上の青木さんがよくなるということは、つまるところ、僕の芝居がよくなるということ。すべては「僕のため」なんです。恩に感じる必要はまったくない。

青木:全部「自分のため」ですか(笑)? 舞台は回を重ねるたび、自分に欠けている部分に気づかされるなと思っていて、稽古をしていても毎回、自分に何が欠けているのかを考えさせられます。

三谷:青木さんって、なんていうか普通、役者さんが絶対思いつかないお芝居をする。『23階の笑い』の稽古で、最初に登場するシーンを作った時が忘れられなくて。青木さん演じるヘレンという女性は、放送作家たちが集まる部屋の隣のデスクで働いている事務員なんだけど、本当は自分も放送作家になりたいと思っている。だから、憧れの人たちが働いている隣室がすごく気になる。

青木:はい。

三谷:そんなヘレンがいざその部屋の扉を開けた時、普通の反応だったらつまらない。だから青木さんに、「思い描いていた夢の部屋に入った瞬間なんです。部屋の空気を胸いっぱいに吸う感じで演じてみてください」とお願いしました。そうしたら青木さんは、部屋に足を踏み入れた瞬間、めちゃくちゃ息を吸い込んでいたじゃないですか。比喩で言ったのに。ふざけているのかなと思いました。

青木:稽古中にふざける訳ないじゃないですか。私はいつもふざけられなくて困ってます(笑)。

三谷:ふざけていないこともちゃんと分かっていますよ。必死なんですよね、いつも。だから面白いんです。めちゃくちゃ息を吸ってしまう青木さんだからいいんだし、僕はそれを求めていたりもするんです。青木さんはこれから女優としてどんどん上手くなっていくんだと思うけど、僕の中での“飛び道具的な青木さやか”がいなくなってしまうのはちょっと寂しいですね。

青木:飛び道具ですか。ありがたいですが、私も経験を積んで多少スキルは上がっています。

三谷:ただ、今のところはそれが上がってない。不思議と上がってないんですよ(笑)。だからいいんです。

青木:えっ、困ったなぁ、いや困らないのかな(笑)。

三谷:あとね、驚いたのが、稽古場の最後の日。青木さんて出番のない時に、皆の芝居をいつも食い入るように観ているじゃないですか。あれはとっても素晴らしいことだと思うんだけど、仕上げの通し稽古をやっている最中に、誰かがものすごく笑ってて、てっきり僕は、初めて観る関係者かと思ったんですよ。とにかく反応がいいから嬉しくなって、この芝居は成功するぞと確信して、改めて笑い声の主を見たら、青木さんだった。がっかりですよ。何回も観ているのに、よくこんなに笑えるなって。でもね、そんな青木さんのピュアな精神に、ちょっと感動しました。