午前2時の声


「起きて! 浩介! 燃えてる! 翔平を起こして!」

はっと、目が覚めた。冷水をかけられたように、はっきりと、意識が覚醒する。

耳元で、ものすごく大きな声で、はっきりと女性の声がした。

酩酊が吹っ飛び、がばっとソファから起き上がる。電気がつけっぱなしのリビング。しんと静まりかえっている。咄嗟に時計を見ると2時。帰宅したのが23時頃だったから……2時間ほど眠っていた?

心臓がようやく、一瞬止まったかに思えた鼓動を盛大に再開していた。

夢にしては、あまりにも、右の耳朶に声の感触が残っていた。耳元で大声で話しかけられたせいで、キーンと耳鳴りがしている。

 

――なんて言った? え? 燃えてる?

咄嗟にオープンキッチンのガスコンロのあたりを見る。しかしなんの異常もなかった。

――あの声……。

聞き覚えのある声。あれは……あの声は。

 

反芻して、またハッとした。「声の主」は燃えている、と言った。それから、翔平を助けて、と言わなかったか?

リビングを飛び出した。廊下の電気をつけると、なんと当たり一面、嫌な臭いの煙が立ち込めている。背筋が凍り付き、つぎに脚から震えが来た。

「翔平!」

叫びながら部屋に飛び込むと、翔平は僕が布団をかけてやったときのままぐっすりと眠りこんでいる。

「起きろ! どっか燃えてる、火事だ! 逃げろ!」

「うへッ!? なに? 父さん? え、火事!?」

たたき起こされた翔平は、なんとかベッドから起き上がると電気をつけた。この部屋にも廊下からうっすらと煙が漂ってくる。

「庭に出ろ! 火元を確認するから」

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亡くなった妻にもう一度会いたい夫。しかし思わぬ事件が……!?
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