飛行機の門限


グランドスタッフの仕事は多岐にわたるが、私が一番好きなポジションが「ゲート業務」。ゲート、すなわち搭乗口にスタンバイし、担当フライトの出発準備からお客様のボーディング(搭乗)サポート、お見送りまでこなす。数人のグランドスタッフで1便を担当するので、チームプレーを実感できるし、定時で出発させることができたときの爽快感も癖になる。

最近ではバックオフィスで、管理職のような裏方仕事を担当する日も増えていたから、同期の絵里子と同じゲートを担当できるのが最高に嬉しい。

私たちは、ゲートにつくと早速支度を始めた。後輩の吉田さんも「よろしくお願いします!」と飛び込んでくる。1便ごとに数名のゲート担当スタッフが集まり、シフト表には役割も書いてある。今回の責任者は絵里子で、私と吉田さんが下につく。

 

「今日の伊丹、最終便だね。到着地Curfew(カフュー。門限・時間制限の意。空港ごとに、夜間に近隣の住民を騒音から守るため、離着陸できる時間が厳しく制限されている)ギリギリだから、絶対に遅延しないようにしましょう」

絵里子が、責任者らしく表情を引き締める。「了解です」と私と吉田さんもうなずいた。飛行機はチームで飛ばしているので、各部門のどこかで1分でも遅れると、玉突きで貨物や管制塔などさまざまな影響が出る。定時運航を守るために、グランドスタッフの判断はシビアに下さなくてはならない。

 

長年この仕事をしていても、1分を争うこの感覚に、毎回背筋が伸びる。

私たちは笑顔で頷きあうと、お客様に搭乗開始のアナウンスを始めた。

窓の外を見ると、夕闇にぽつぽつと、雨が降り出している。気温が一段と、下がったような気配があった。強い突風が、不穏にガラス扉を揺らした。

次ページ▶︎ 順調かに思えたゲート業務。しかし出発時刻が迫ると、「気がかりな乗客」が……?

空港では、「奇妙なハプニング」が、ときどき起こります……。
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