他人がどんな現実を生きているかなんて「わからない」のが前提

 

――この前ホストクラブに行ったとか、そういう日常会話が世の中にもう少し増えてほしいとか、そうした思いはありますか。

手塚 男だって、大っぴらには言わないですからね。そのあたりはその人の美意識や価値観によるところが大きいし、プライベートと公は分けても全然いい気しますけど。今って女性用風俗もすごく人気があるんですけど、自分が恥ずかしいと思っているならわざわざ人に言う必要はないと思う。逆に他人にも踏み込む必要はないですよね。

――それでも、何ていうんでしょう、水商売をしたことがないけれど、夜の街で働く人たちに対して理解を深めたいと思う場合は、どうしたらいいと思われますか。

手塚 これまでお伝えしたことに帰結してしまうんですけど、やっぱり勉強することじゃないですか。そこから、他者に対する想像力を働かせること。そして直接話を聞くことなのかなと。亜熱帯の地域に住んでいる人がどんな暮らしをしているのかなんて、想像できないじゃないですか。目が見えない人は色々不便だろうなとは思っても、何に不便なのかは、学んだり本人に聞かなければわからないですし。

――水商売で働く人たちに限らずということですね。

手塚 僕は乙武(洋匡さん)と仲がいいんですけど、同じ部屋で寝ていて彼が蚊に刺された時に、「背中掻いて!」って超悶絶していたんです。その様子を見て、そうだよな、背中を自分でかけないんだよなって気づいた。それと、彼に何気なく「爪切りあります?」って聞いたら、「あるわけないじゃん」と返ってきたんで、ああ、彼は爪切りを使わない人生なんだということを、その時に実感したわけです。

だから、自分以外の誰かがどういう現実を生きているかなんて、そもそも「わからない」のが前提なんですよ。知りたい、理解したいのなら勉強するしかないし、想像力を働かせるしかないし、本人に聞くしかない。それってやっぱり、新聞やテレビの情報を鵜呑みにするだけでは、わからないことだらけだと思いますね。

 

<差別とは、そして加害とはなにか? を知るための
手塚マキさんおすすめの本>


『凜として灯る』荒井裕樹 現代書館 1980円(税込)

「女性解放」を掲げたウーマン・リブの運動家、米津知子さんの足跡を辿る一冊。1974年、東京国立博物館に展示された名画『モナ・リザ』に、彼女はなぜ赤いスプレー塗料を噴射したのか。ウーマン・リブを掲げ、足に障害を抱える者として障害者運動に参加した女性の、眼差しの先にあったものはなんだったのか。差別の被害と加害の狭間で揺れる、一人の女性の生きざまを描く。

 


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撮影/塚田亮平
取材・文/金澤英恵
構成/山崎 恵