待ち伏せ少女
「こんにちは。あちいね。毎日この時間に通るね、学童帰り? 友達と待ち合わせかな?」
オレは道を渡って公園の入り口まで行くと、そこにじっと立っている女の子に話しかけてみる。
「……」
女の子は口を開かない。でも、なんとなく、何か迷っているような気がした。オレは昔から子どもとは波長があう。レベルが同じだからね、って言ったのは彼女の咲月。
「だんだん日が短くなってきてるから、暗くなる前に帰ったほうがいいよ」
「……ここに、YouTuberが住んでるの。ファンだから出待ちしてる」
へ!? YouTuber? 出待ち!?
オレは女の子が指さした豪華マンションと彼女の顔を交互に見た。
「お嬢ちゃん小学生だよね? YouTuberなんて知ってるの? 最近の子はハイテクだねえ」
「……ハイテクの意味、違うと思うけど」
どうやら小柄でやせっぽちだけど、頭のいい子のようだ。やんちゃだったオレは昔からこういう子とは無縁で、むしろ怒られまくってきたほうだから、ずっと年下とはいえなんだか座りが悪い。
「まあここにそのYouTuberが住んでるかどうかはまったく知らないけど、もうすぐ19時だし、親御さんが心配するから帰りな帰りな。近所ならパトロールついでに送っていくよ」
オレが女の子に寄って来た蚊を追い払いながらそう言うと、彼女は一瞬だけ下を向いて、それからまたパッと駆けだした。背中にリュックをしょっている。いつもこのくらいの時間に現れるということは学童か習い事の帰りだろうか。
「危ないから前をよくみてな~!」
オレが声をかけると、女の子は振りかえって、大きく手を2度、振った。
――おお~小学生、つんつんしてても可愛いとこあるじゃないか。
単純なオレは地域の住民と交流できたような気がして嬉しくなり、「気をつけて帰れよ~」とぶんぶん手を振り返した。
湧き上がる疑問
それからも、彼女は毎日、同じような時間に交番の前の公園に来て、入り口のベンチにすわってマンションを見ていた。注意深く見ていると、18時頃から19時すぎまで座っている。決まって一人だし、とにかくただただ座っているのだ。
次第に気になってきて、その時間はシフトが入っている日は極力交番にいるようにした。出勤前にコンビニによって昼飯を調達するついでにこっそりスポーツドリンクやお菓子を買って、さりげなくあげたりもした。
最初はいらないとそっけなく断られたが、3回目、「ありがと」というと妙に勢いよくおやつを食べる。このあたりは豪邸や超高級マンションばっかりだから、この子もお金持ちの家の子に違いないのに、もしかしてオレがあげた駄菓子が珍しいのかもしれない。
それにしても、いくらYouTuberに会いたいからって、毎日毎日夏休みの小学生がベンチに1時間も座っているものだろうか?
夏の夜、怖いシーンを覗いてみましょう…。
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