身体のどこかが痒いのに、どこなのかわからない⋯⋯あちこち掻いてみても違う気がする。そんな「痒みの生まれる場所と自分の指で掻く場所がいつまでも一致しないという強烈な不和状態」というのは、「身体のリアリティー」を喪失するトリガーになるのだと言うのは、認知科学研究者の小鷹研理さんです。

「私たちの身体に生まれる、それが自分のからだであるという感覚=『からだ』は、複数の感覚の情報が整合していることによって担保されている」のだそう。
今回は、小鷹さんの著書『からだの錯覚 脳と感覚が作り出す不思議な世界』より、自分の身体についての認知が危うくなる感覚を体験できる、不思議で奇妙な実験のやり方を抜粋してご紹介します。

写真:Shutterstock


実験その① ブッダの耳錯覚 耳があり得ないほど伸びる!

 

① 上の手で耳たぶを下に引きながら、体験者は、相手の動きがぼんやり視界に入るようなイメージで、リラックスした状態で前方を向く。実験者は、上の手で体験者の耳たぶを軽くつまんで下に引っ張る。

② 下の手で「見えない耳たぶ」を、みょーんと下にスライドさせると?
(上の手で)つまんだ耳たぶを下に軽く引っ張るのと同時に、ちょうど耳たぶから出ている「見えないヨーヨーの糸」を引くようなイメージで、つまんだふりをした下の手を、めいいっぱい地面に向けて直線的にスライドさせる。

③ 耳たぶがめちゃくちゃ伸びているように錯覚する !
引っ張ったり戻したりを何度も繰り返していると、体験者は、耳たぶが、実験者の手の動きと連動して下側に長く伸び縮みしているような錯覚を覚える。

④ スライドした下の手をぱっと離すと?
つまんだ耳たぶを引っ張ったままで、空中でスライドさせた下の手をぱっと離すと、耳たぶが伸びたままフリーズするような感覚が得られる。

 

【補足】「スライムハンド錯覚」の原理を、耳たぶの皮膚に応用した錯覚。風船などのゴム素材を耳たぶにはさんで引っ張ることでも同様の皮膚伸び感覚が得られるが、伸びる距離は制限される。イラストのように、何もない空中で引っ張る方法であれば、人によっては際限なく耳たぶが長く伸びていく。