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『アウシュヴィッツの生還者』絶賛公開中
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実話をベースにした作品が好きなこともあり、これまでナチスを題材にした映画をいくつも観ています。
その度に、まだこんなにつらい話が残されていたのかと、衝撃を受けてきました。
先日観たばかりの『アウシュヴィッツの生還者』も、知られざる真実を映画化した作品です。

主人公はナチスの強制収容所から生還してアメリカに渡り、ボクサーとして活躍しているハリー・ハフト。
彼には生き別れになってしまった恋人がいて、彼女と再会するために、人気ボクサーと対戦して有名になることを思いつきます。
その計画のために記者に収容所での経験を告白するのですが、ハリーの過去には壮絶な秘密が隠されていました。

ナチスの中尉が主催する賭けボクシングで同胞のユダヤ人と戦い、生き延びてきたというハリーの過去が、モノクロの映像で描かれていきます。
まるで闘犬や闘牛のようにユダヤ人を戦わせ、負けた者が射殺される賭けごとで喜びを得る人たちがいたこと。
それすらも人間の本能であり、大きな組織の集団の側にいると感覚が麻痺してしまうかもしれないこと。観ている間、絶望的な気持ちになりました。

 

そんな過酷な物語の中に貫かれているのは、恋人が今もどこかで生きていると信じるハリーの思い。
私には想像することしかできませんが、死ぬ間際を目にしていない人の死を受け入れるのは、とても難しいことですよね。コロナ禍でも同じようなことがあったのではないかと思います。
あらゆることの犠牲になった人たちはただの数字ではなく、すべての人にひとりずつの果てしないストーリーがあるのだと、改めて感じました。

この映画では、ハリーが経験した、信じられないような究極の選択も描かれています。ボクサーとしての戦い、戦争での戦い、人生の戦い。
あらゆる戦いから生き延びてきたハリーを演じたのは、28キロ減量したという俳優、ベン・フォスター。
役作りのためのスケジュールは確保されていたとは思いますが、言語の修得や肉体改造が必要とされる、ものすごく大変な役柄だったと思います。一体どれほどの覚悟を決めて役に向き合ったのか、その俳優魂について直接伺ってみたいほど。
臨場感あふれるボクシングシーンや、特訓を受けるシーンも見応えがありました。
驚いたのは、主人公のモデルであるハリー・ハフトは、2007年までご存命だったということ。
資料で亡くなった年について読んで、遠い過去ではなく最近の話なのだと思い知りました。

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終戦記念日のニュースを目にすることが多くなる夏。
映画を通して戦争の裏側や真実を知ることは、平和について考えるきっかけになると思います。
今年の春、「ミキモトMIKIMOTO」で開催されていた『真珠のようなひと−女優・高峰秀子のことばと暮らし−』に足を運びました。
戦争を経験した高峰さんが『徹子の部屋』で語っていた「終戦とは新しい戦前」という言葉も忘れられません。
日本映画に目を向けても、まだまだ観ていない作品がたくさんあります。『二十四の瞳』などの名作を改めて観てみようかなと思っています。

 
 

<映画紹介>
『アウシュヴィッツの生還者』

1949年、ナチスの収容所から生還したハリーは、アメリカに渡りボクサーとして活躍する一方で、生き別れになった恋人レアを探していた。レアに自分の生存を知らせようと、記者の取材を受けたハリーは、「自分が生き延びた理由は、ナチスが主催する賭けボクシングで、同胞のユダヤ人と闘って勝ち続けたからだ」と告白し、一躍時の人となる。だが、レアは見つからず、彼女の死を確信したハリーは引退する。それから14年、ハリーは別の女性と新たな人生を歩んでいたが、彼女にすら打ち明けられないさらなる秘密に心をかき乱されていた。そんな中、レアが生きているという報せが届く──。アウシュヴィッツからの生還者の息子が、父の半生について書き上げた衝撃の実話の映画化。

配給:キノフィルムズ
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取材・文/細谷美香
構成/片岡千晶(編集部)

 

 

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