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『ジャンポール・ゴルチエのファッション狂騒劇』9月29日(金)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷、シネ・リーブル池袋、シネマカリテほか全国公開 © CANAL+ / CAPA 2018

今回紹介する『ジャンポール・ゴルチエのファッション狂騒劇』は、今年、日本でも上演された「ファッション・フリーク・ショー」の舞台裏を追いかけたドキュメンタリー。
これまで『ドリス・ヴァン・ノッテン ファブリックと花を愛する男』や『マルジェラが語る“マルタン・マルジェラ”』などファッションデザイナーを題材にしたドキュメンタリーをたくさん観てきましたが、私のなかで一気にトップに躍り出たほど大好きな作品です。

© CANAL+ / CAPA 2018

私は残念ながら公演を鑑賞することはできなかったのですが、「ファッション・フリーク・ショー」はゴルチエが自身の半生をベースにして企画、脚本、演出を手がけたショー。
それだけに舞台裏を追いかけたこのドキュメンタリーも、彼のこれまでの人生の喜びや悲しみが詰まった作品になっています。
幼少期の思い出、同性愛者であること、どんな壁にぶつかっても何度も何度も乗り越えてきたこと。
出会った人たちへの愛情、最愛のパートナーの死。彼のなかの大切な記憶が作品に込められていることが伝わってきて、自然に涙があふれてきました。
ミュージカルの企画からプレミアまでを追った作品なので、どんなときも妥協せずに進化を続ける仕事人としてのゴルチエの姿もたっぷり見ることができます。

© CANAL+ / CAPA 2018

私が驚いたのは、ゴルチエほどのデザイナーがチーム全員を大切にする姿勢を持ち続けていること。
フォローして反省して、ちゃんと思いを伝えて……、不死身なんじゃないかと思うくらいのエネルギーと同時に、細やかで優しい感性を持っている人なのだなと感じました。
「彼の頼みだから」とチームが一致団結していく過程からは、もの作りや仕事をしていくうえでの学びを得ることができると思います。

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おばあちゃんからもらったクマのぬいぐるみを手術するところなど、ゴルチエのセンスの源に触れるようなシーンも登場します。
印象的だったのは、ダンサーがダンスをするためではない靴で踊らなければいけないシーン。
私だったらあの靴で踊るのは絶対に無理! と思いましたが、ステージを作る側と立つ側の情熱が感じられる見応えのあるシーンになっています。

© CANAL+ / CAPA 2018

マドンナをはじめ彼を愛する人たちが次々に登場するなか、個人的にうれしかったのは大好きなペドロ・アルモドバル監督作品の常連である、ロッシ・デ・パルマが出演していること! 
彼女の存在感に圧倒されながらも、ゴルチエが作り出すものには時代に左右されないパワーがあることを感じて、久しぶりに彼がデザインした洋服を着てみたくなりました。
デザインした人の思いがこもった洋服をもっと大事にしなくちゃ、という気持ちにもさせてくれたドキュメンタリー『ジャンポール・ゴルチエのファッション狂騒劇』。
小さな頃に自分は人と違うのかもしれないと悩んでいたゴルチエからの、「人と違うことは間違いじゃないよ」というメッセージが心に響く作品です。

 
 

<映画紹介>
『ジャンポール・ゴルチエのファッション狂騒劇』

奇想天外でファンタスティックなデザインで有名なクチュリエ(男性デザイナー)、ジャンポール・ゴルチエ。今回挑むのは、ミュージカル「ファッション・フリーク・ショー」だ。自身のコレクションと2足の草鞋を履いて創り上げるショーの舞台裏はトラブルの連続だった。衣装合わせ、初のリハーサル、ダンサーの故障、演出のいざこざなどアクシデントに見舞われるゴルチエとそのチーム。制作が進むに連れて明かされるゴルチエの真実とは? 果たして無事初日を迎えられるのか? ヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷、シネ・リーブル池袋、シネマカリテほか全国公開中。

配給:キノフィルムズ

出演:ジャンポール・ゴルチエ、マドンナ、カトリーヌ・ドヌーヴ、ロッシ・デ・パルマ、ナイル・ロジャース、マリオン・コティヤール _
監督:ヤン・レノレ


取材・文/細谷美香
構成/片岡千晶(編集部)

 

 

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