職場環境をより両立しやすい状態に改善していく

 

問題は、現在の職場には、こうした条件が整っていないときです。
その場合であっても、いきなり会社を辞めるという決断は得策ではありません。まずは、上司や人事部に相談しながら、企業内でより条件の整った仕事に配置転換できないかを考える必要があります。

 

次に、今の職場の仕事のあり方そのものを見直していくことはできないかについても、考える必要があります。

そもそも優れた介護が実現されている場合、日々の介護は、実質的に介護のプロに「丸投げ」できている状態にあります。そうした優れた介護が実現されていれば、介護のために仕事を休む必要がありませんから、先にあげた3つの要素を無視することも可能になります。

このあたりに関しては、先にも言及したとおり、仕事と介護の両立に必要なのは介護サービスに関する知識であることを思い出す必要もあるでしょう。

企業としても、今後は、先の3つの要素に沿った職場に変化していけないと、離職やパフォーマンス低下につながってしまいます。

同時に、介護サービスに関する知識も、社員にしっかりと教育していく必要があります。そのため、あなたがビジネスケアラーとして具体的に苦しんでいることを前提とした、両立支援制度に関する提案をもらえること自体は、大歓迎なはずです。あなた自身が両立の成功事例となって、職場環境をより両立しやすい状態に改善していければ、素晴らしいことでしょう。

また、そのときの改革のノウハウは、付加価値が高いため、他の企業もきっと欲しがります。場合によっては、仕事と介護の両立コンサルタントとして、そうした働き方改革に関わっていくというキャリアも見えてくる可能性さえあります。 

 

著者プロフィール
酒井 穣(さかい・じょう)

株式会社リクシス創業者・代表取締役副社長 CSO。過去に、事業構想大学院大学・特任教授や、新潟薬科大学・客員教授などを歴任している。
1972年、東京生まれ。慶應義塾大学理工学部卒。Tilburg 大学 TIAS School for Business and Society 経営学修士号(MBA)首席(The Best Student Award)取得。

『ビジネスケアラー 働きながら親の介護をする人たち』
酒井 穣 ディスカヴァー・トゥエンティワン 1210円(税込)

「ビジネスケアラー」とは「働きながら介護をする人」「仕事と介護の両立をする人」の意味です。2025年以降、団塊世代800万人に要介護者が急増する日本では、「仕事と介護の両立」問題は、個人の問題だけでなく、日本社会全体の問題です。仕事と介護の両立支援サービスのトップ企業、株式会社リクシスCSO酒井穣氏が、「ビジネスケアラー」問題について今後の指針を示す一冊!


写真:Shutterstock
構成/大槻由実子