「会社側の責任」が透明化されてしまわないように


ドラマの中では、晶穂の先輩は人格者で、周囲に気を遣い感謝もしていたので、晶穂も先輩が悪くないのはわかっている、と言います。でも、実際はそんな子育て当事者ばかりではないと思います。周囲に気を遣う余裕がなかったり、はっきりと感謝を伝える人ばかりではないかもしれません。その場合、子育て当事者に怒りの矛先が行き、結果として会社側の責任が透明化されてしまうこともあるのではないでしょうか。

皆川晶穂(黒川智花)に担当を変えて欲しいと言われ困惑する未谷千晴(小芝風花)。 ©︎カンテレ

ドラマでは、晶穂の会社は、晶穂が追い込まれて退職したことを重く見て、晶穂の先輩も動き、子育てする人がいても仕事が回り、周囲が疲弊しないよう、人を増やすなど改革を行うことを決意。晶穂はもともと会社も仕事も好きだったこともあり、元の会社に戻るという決断をします。子育て当事者ではなく、会社が変わるべきだというところに持って行ったのがとてもよかったと思います。このドラマ、求職者の選択は転職だけでなく、独立や、今回のように元の会社に戻る、ということもあるんです。

転職すればすべてが解決するわけではない。今の会社で、困っていることがあるなら本気で上司に伝えてみることも必要。そんなメッセージを感じました。

 

仕事は“嫌で苦しくて耐えがたいもの”であっていいのか

転職の魔王様・来栖が求職者に必ず伝える言葉、「あなたの人生、このままでいいんですか?」。 ©︎カンテレ

2022年の正社員の転職率は7.6%で、2016年以降最も高い水準になり、転職するのが当たり前となった昨今。今の環境に不満があれば転職しろなんていいますが、実際は今までの職歴と実績という手持ちのカードで勝負しなければならず、年齢と共に選択肢も減っていく転職市場。理想の転職を遂げるのは容易ではありません。

それでも、1日の約3分の1、人生の大半を過ごすのが仕事。自分が嫌な仕事や、耐えられない人間関係の中働けば、魔王様の言うように人は死にます。少なくとも心が、そして精神が。やりがいを感じられる仕事、良好な人間関係、今より高い給与。それによって人間らしい生活を求めることは、贅沢なことでしょうか。よく、仕事は辛く苦しいものだ、と言います。でも、人生の大部分を捧げるのに、嫌で苦しくて耐えがたいものであっていいのでしょうか。