余命3ヶ月が10ヶ月に


余命3ヶ月でチロと一緒に入居してきた山口さんは、入居から10ヶ月まで命をつなぎ、最期はベッドの上で寄り添うチロに笑顔を向けて旅立ったそうです。その後、チロは「さくらの里」の犬として過ごすことになったのだそう。そんなチロにはこの後、もう一つの物語が待っていました。それは、同じホームで暮らす保護犬・ルイとの友情です。

保護犬のルイ。チロとは同じ歳。(写真=本書より)

チロとルイは同じ小型犬で年齢も同じですが、「絆が深まったのはともに高齢になってから」だったそう。その友情を伝えるエピソードについて、石黒さんは教えてくれます。

人間同様、犬も普通の食事が摂れなくなると、流動食のように食べやすくしたものを与えることになる。2匹ともそんな状態だった。僕が取材で何度も訪れていた2022年秋には、平均年齢を超えかなり弱っていたルイ。獣医さんから、もう長くないかもしれないと言われていたらしい。

しかしある日、与えられた食べ物を口にしなくなったルイが、チロが食べているところに寄っていったのだという。すると、ふだんはほかの犬が食べ物に近づくと吠えているチロが、自分の分を譲ってあげていたのだと。自分のベッドにも、ほかの犬が入ることを許さない気の強いチロが……。

こうしてルイは食事ができるようになり、いのちの危機を脱した。さらにチロは自分のベッドにルイを招き、2匹で寄り添って眠るようになっていった。
――『犬が看取り、猫がおくる、しあわせのホーム』より
 

親友の犬が犬を看取った

チロの横にいるのは、仲良しのルイ。(写真=本書より)

そのあと、チロは2023年1月5日に、15歳で山口さんの元へ旅立っていきました。その時の様子について、石黒さんはこう綴ります。

チロが山口さんのお迎えに導かれた日。職員が、リビングのベッドで2匹が寄り添って寝ている姿を見たのが夜9時30分。チロの息が止まっていたことに気づいたのは、その20分あとのことだった。老いてできた大親友のあたたかさをたっぷりと肌で感じながら、友にさよならを言って旅立ったチロ、見送ったルイ。

犬が犬を看取る奇跡。僕は図らずも撮っていた2匹の写真を見返した。
――『犬が看取り、猫がおくる、しあわせのホーム』より