「オランダの奇跡」の礎となったもの


1970年のオイルショックを伴う経済危機後、「オランダの奇跡」と呼ばれるほどの経済回復を果たした同国の一つの転換点となったのが、「ワッセナー合意」と呼ばれる協定だったと本書は教えます。ワッセナー合意とは、「フルタイムワーカーの労働時間を短縮させ、雇用の確保・ワークシェアリングを進めること、仕事を分け合うことで雇用を守り、失業者を減らすことを目的とした」もの。

ただし、課題も発生したといいます。ワッセナー合意によって働き方改革が大きく促進された一方、労働時間が短くなり、賃金も抑制される事態が起こったのです。そこで、専業主婦だった女性が家計を支えるために、「低賃金のパートタイマー」として社会進出するケースが増加。この時、パートタイマーの待遇改善に約100万人の労働組合「FNV(オランダ労働組合連盟)」が動き、雇用主団体との協議が実施されました。その協議の結果、オランダでは以下のような法律が制定されたといいます。


労使協調の中で1996年に、フルタイム労働者とパートタイム労働者の待遇格差を禁止する「労働時間差別禁止法」が制定。2000年には労働者側が時間あたりの賃金を維持したまま労働時間の短縮や延長を自己決定できる「労働時間調整法」が制定された。その結果、女性の社会進出は大幅に上昇し、OECD調査で就業率は2016年現在70%(日本は66%)まで上昇。そして平均労働時間は日本が1713時間であるのに対してオランダは1430時間(2019年)。一方で就業者一人あたりの労働生産性は日本が8万1183ドルであるのに対してオランダは11万4918ドル。オランダは、労働時間が少なくても労働生産性が高いのに対して、日本では長時間労働しているにもかかわらず労働生産性が低いという対照的な結果になった。

——『中流危機』より