もう自由恋愛だけでは立ち行かない

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牛窪:今の50~60代は、競争の時代に入社した世代で、結婚についても「自分は自力で恋愛結婚を成就した」と考えている男性も多いのですが、実際は親類や上司、取引先からの紹介など、見合いに近い形で結婚に至ったケースも多いものです。自分には恋愛力があった、自由恋愛の中で伴侶を勝ち取ったという意識が強いけれど、今の若者とは社会環境が大きく違います。昔は女性が一生働き続けられる職場も少なかったですし、20代後半になると「まだ結婚し(て辞め)ないの?」など、女性は社内で肩叩きに遭うのが通例でした。働き続けるのが難しいからこそ、女性にとって結婚は死活問題だったのです。

今は選択肢も広がり、女性も正社員であれば、男性と同等の稼ぎを得る時代になってきた。それなら、女性がおもに稼いで男性が家事・育児を担うとか、妻と夫がフィフティーフィフティーで家計(支出)や家事・育児をシェアするとか、いろいろな形の結婚があって当然だと思うんです。ですが先日、ある講演会でその話をしたとき、80代の男性からこう言われました。「我々男性は、がむしゃらに働いて日本を豊かにし、そこで得た血と汗の結晶(年収)で長年、妻子はご飯を食べることができた。我々が今の日本を作ったんです。あなたはそれを否定するんですか」と。

もちろん、競争を生き抜いた方たちを否定はしません。でも今は、時代が違う。国や会社は頼りにならず、「一人で自由に相手を探しなさい」と荒海に放り出されてしまっているのです。一般に、低年収や非正規、あるいは外見やコミュニケーション能力に自信がない人たちは、たとえどんなに誠実で堅実でも、自由恋愛の市場では取り残されやすい。

もし国が、「いずれ結婚したいと考える若者(8割強)が、希望通り結婚できる社会にしたい」と真剣に考えるなら、不器用だったり自分に自信がなかったりする若者をしっかり支えなければなりません。同時に、「たとえ恋愛力がなくても、結婚はできる」という結婚の多様性を、キチンと提示すべきなのです。

次回は、恋愛結婚に代わる新たな結婚の形、「共創結婚」についてお話を伺います。

インタビュー前編「「格差シャッフル」が起こらなくなった日本。恋愛・結婚格差はなぜ起きているのか?【牛窪 恵さん】」>>

 

『恋愛結婚の終焉』
著者:牛窪 恵 光文社新書 1034円(税込)

「いずれは結婚するつもり」という若者が8割以上いるにもかかわらず、なぜ日本では未婚化が進み、少子化が解消されないのか。「恋愛は面倒」「恋人は欲しくない」という若者たちが結婚に向かうために、従来の「結婚」の常識を再考。「結婚には恋愛が必要だ」という呪縛を解き、「結婚に恋愛は要らない」とする新たな「共創結婚」を著者が提案する。


取材・文/ヒオカ
構成/金澤英恵