『ルージュの手紙』
監督:マルタン・プロヴォ
出演:カトリーヌ・ドヌーヴ、カトリーヌ・フロ、オリヴィエ・グルメ 
配給:キノフィルムズ/木下グループ 12月9日よりシネスイッチ銀座ほかにて公開
© CURIOSA FILMS – VERSUS PRODUCTION – France 3 CINEMA


フランス映画界を代表する“ふたりのカトリーヌ”、ドヌーヴとフロが共演した作品『ルージュの手紙』が公開されます。ふたりの役どころは、30年の時を経て再会した母と娘。といっても血のつながりはなく、亡き父の再婚相手だった奔放な女性、ベアトリスをドヌーヴが、そして助産師として真面目に働いてきた娘、クレールをフロが演じています。

 

シングルマザーとして息子を育てたクレールの穏やかな日常をかき乱すかのように表れたベアトリスは嵐のようなにぎやかさで、ふたりのキャラクターはまぁ見事なほどに正反対! 病を抱えていても薬はまずいから飲まないと子供のようなわがままを言って酒とタバコをやめず、ギャンブルを愛するベアトリス。50キロの制限速度の道を30キロで運転し、患者に感謝されても「仕事をしただけよ」と答える、堅物だけれど根っこには誠実さと優しさを持つクレール。父が自殺したのはベアトリスとの別れが原因だと思っているクレールはなかなか彼女のことを許せずにいるけれど、どこか憎みきれない魅力と愛嬌を持つ継母を少しずつ受け入れていきます。そして人生を楽しむ術を知っているベアトリスのペースに巻き込まれるように、家庭菜園(川のそばのとても素敵な場所!)で出会った人との新しい恋へと一歩踏み出していくのです。

 

ドヌーヴ様はさすがに迫力たっぷりですが、人を威圧しない大らかな貫禄があって、とてもチャーミング! ヒョウ柄やショッキングピンクのブラウスに大ぶりなゴールドのアクセサリーを合わせるコーディネートにも目を引かれました。『大統領の料理人』『偉大なるマルグリット』などで知られるフロは、この人に演じられない女性像はないのでは? と思ってしまうほど本作でも説得力とリアリティのある芝居を見せています。

 

「あなたはキスで人を幸せにできる人。父もあなたのキスが好きだと言っていた」と、娘が母をギュッと抱きしめるシーンに、思わずほろり。人はいくつになっても変われるし、許すことで開くことができる扉もある。『ルージュの手紙』という邦題の意味が小粋に響くラストも、続いていく人生を祝福するような余韻を残してくれます。母娘ものであり、思いがけなく手を携えることになったデコボココンビのバディ・ムービーのような面白さもある作品です。

 

PROFILE

細谷美香/1972年生まれ。情報誌の編集者を経て、フリーライターに。『Marisol』(集英社)『大人のおしゃれ手帖』(宝島社)をはじめとする女性誌や毎日新聞などを中心に、映画紹介やインタビューを担当しています。
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