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『ユダヤ人を救った動物園 アントニーナが愛した命』
監督:ニキ・カーロ
出演:ジェシカ・チャスティン、ダニエル・ブリュール、ヨハン・ヘルデンベルグ、マイケル・マケルハットン 
配給:ファントム・フィルム TOHOシネマズみゆき座ほかにて公開中
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今月だけでも『ヒトラーに屈しなかった国王』『否定と肯定』などが封切られ、ナチスを題材にした映画は日本でもたくさん公開されています。そのたびに明かされていなかった歴史の裏側に驚かされるわけですが、『ユダヤ人を救った動物園 アントニーナが愛した命』も、知られざる実話をもとにしたヒューマン・ドラマ。オスカー・シンドラーや杉原千畝のように、ナチス支配下のなかで危険を顧みずに300人ものユダヤ人を救い出した女性、アントニーナ・ジャビンスカとその夫の信念が描かれた作品です。

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ドイツ軍のポーランド、ワルシャワへの侵攻によって、夫とともに営む動物園が存続の危機に瀕することに。そんななかアントニーナは、動物園を隠れ家にして、ゲットーに送られていくユダヤ人をかくまうという計画を実行に移します。ドイツ兵の監視の目をかいくぐりながらユダヤ人を救っていく彼女の心の奥底には、弱き者たちへの揺るぎない思いがある。そのことが、愛らしい動物たちに穏やかに語りかけて抱きしめ、ゾウの出産に優しく手を貸す冒頭のシーンから描かれていきます。

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動物園が爆撃される胸が押しつぶされるようなシーンや、孤児院の子供とともにホロコーストの犠牲になったコルチャック先生のエピソード、ヒトラー直属の動物学者の存在も描かれ、アントニーナがいかに困難な時代を生き抜こうとしたのかが伝わってきます。

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『クジラの島の少女』のニキ・カーロが監督をつとめ、すべての命を敬う主人公を演じたのは、エグゼクティブプロデューサーにも名を連ねているジェシカ・チャステイン。『女神の見えざる手』ではスーツで武装するかのように敏腕ロビイストを演じた彼女が一転、この作品ではフェミニンな衣裳に身を包み、慈愛に満ちた優しい表情を見せています。暴力に暴力で抗うのではなく、戦わずして戦う。そんなヒロインが、差別や争いがやむことのない現代に大きな問いを投げかけてくれる作品です。

 
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PROFILE

細谷美香/1972年生まれ。情報誌の編集者を経て、フリーライターに。『Marisol』(集英社)『大人のおしゃれ手帖』(宝島社)をはじめとする女性誌や毎日新聞などを中心に、映画紹介やインタビューを担当しています。
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