花楓さんとミモレの出会いは、京都でのファッション撮影。初対面ということもあり、どんな方なのだろうという期待と少しの不安を抱えて撮影が行われる場所へ向かいました。いざ蓋を開けてみると、なんともパワフルで飾らない人。初日の夜には、一緒に食事をいただきながら、花楓さんの半生、そして今取り組んでいる数々のプロジェクトのことetc.たくさんのことを伺うことができました。そのお話があまりに興味深く、もっと詳しく聞いてみたい! そんな思いから、今回のインタビューをさせていただくことになったのです。

花楓(かえで) 1980年生まれ。東京都出身。13歳でモデルデビュー。以来、ファッション誌、CMなどで活躍。現在では、モデル業以外にもコラージュアーティスト、デザイナーなど、活動の範囲を広げている。2012年に結婚、翌年第一子を出産。

 

親になり、自分の
時間が限られたことで、
逆に新しい景色が広がった

 

花楓さんは、モデルであり、5歳のお子さんの母であり、妻。コラージュアーティストとして作品を発表し、夫であり同じくモデルのShogoさんとともにボランティア活動にも積極的に取り組んでいる。この5月には、デザイナーとしてブランドとコラボレートして作りあげたアイテムも発売に。モデル/母/コラージュアーティスト/デザイナー/etc……一体、何足の草鞋を履いているのだろう!?というほど、さまざまな顔を持つ花楓さん。しかも、モデル以外の活動は、すべてプライベートでの縁が縁を呼び、花楓さんの熱い思いが周囲にも伝播して実現したものばかり。そのエネルギーや行動力は一体どこから湧いてくるものなのだろうか。

「もともとひとつの場所に留まっていられないタイプということもありますが、ここまで活動の幅が広がったのは、ここ数年。年齢を重ね、結婚し、母になったことが大きいと思います。以前はとにかく突っ走っていて、周りを見る余裕もなかったし、できない仕事も抱え込んで無理をして、心身ともにボロボロになってしまったり。今は子育てが優先で、仕事や自分に使える時間も限られているから、できないことはできないと言える強さも身につきましたし、無理をしなくなったので、気持ちに余裕も出てきました。おかげで、それまではできなかった自分の思いを表現する機会にも恵まれてきました。モデルの仕事をして、子育てをして、ボランティアやデザイン、アート制作、忙しくはありますが、今が時間も心もいちばんバランスがとれていると思います」

 

服育を通して
モデルの仕事を見つめ直した
ボランティアの活動

 

今のように多岐にわたる活動を始める前は、“モデル”と名乗ることに歯がゆさのようなものをずっと感じていたという花楓さん。しかし、初めての連続である子育てで日々不安や心配事も多い中、モデルの仕事をしている時間は、長年続けてきたからこその安心感があり、それがモデルの仕事を見つめ直すいい機会になったという。またボランティアやコラボレートを通じて、自分がモデルとして培ってきたものが役立ったとき、自分のキャリアに自信が持てるようになったといいます。

 
 

昨年夏に行った障害がある子供たちをファッションで支援するイベントを1冊の冊子にまとめたもの。「自分たちで選んだ服を着てカメラの前に立ち、笑顔になる子供たちを見て、やってよかったなあと思えました」と話す花楓さん。冊子には、花楓さんがイベント中に話した基本的なコーディネートのルールや服の選び方なども掲載している。今年もイベントを計画中で、「今年はトータルでファッションを楽しんでもらいたいので、ヘアメイクさんにも参加してもらいたいなと考えています」とのこと。

「今取り組んでいる知的障害がある子どもたちを支援するボランティアは、ファッションを通じて手助けをするもの。障害がある子供たちは、年齢があがってもファッションはずっと子供のときのまま、ということが多い。でも、大人になり、社会の中で生きていくためには、年齢に合った服装や身だしなみがとても重要ですよね。そこをどうにかできないかと悩んでいたのが、今一緒に活動している東京都立久我山青光学園の三浦千尋先生で、縁があって彼女と知り合い、ファッションのことなら私も何か協力できるかもしれないと思ったのが始まりでした。昨年の夏には、どれを組み合わせても失敗のない、ネイビーや黒、ベージュなどベーシックカラーの服を用意して、子供たちに自由にスタイリングしてもらい、プロのフォトグラファーが写真を撮るというイベントをしました。親御さんも参加されていたので、清潔感のあるファッションや色合わせのこと、年齢に合った服装なども私なりにお話ししたり。子供たちがおしゃれになり、生き生きとする姿を見て、当初はイベント自体を不安がっていたお母さんたちもとても喜んでくれて。それを見て、自分がモデルとして培ってきたことを他の場で生かすことができ、モデルという仕事にも改めて感謝することができたし、仕事をしていくうえでの自信にもつながりました」

 

このタオルの心地よさを広めたい、
その想いで直談判! コラボを実現


デザイナーとしてブランドとのコラボレートも、花楓さんに自信を持たせてくれた活動のひとつ。5月下旬には今治タオルのブランド「伊織」と作ったタイル地のワンピースが発売になるという。

「『伊織』のタオルは、知人が愛媛に移住して以来、何度か訪れるなかで出会い、使い始めたら“もうこれしか使えない!”というくらいにファンになって。このタオルで洋服が作れたら、今まで知らなかった人たちにも素晴らしさを届けられるんじゃないかなと思うようになったんです。実は、私がどうしても心地いいタオル地のワンピースが欲しかったということもありますが(笑)。そこで、『伊織』さんには私のほうからいきなりご連絡して直談判(笑)! このタオルの素晴らしさや思い描くアイテムを伝えたら、ぜひ一緒に作りましょう、ということになって。それが2年前のことなので、今年やっと形になって、とてもワクワクしています。素敵なものを広めるときに、もしモデル“花楓”の名前が役立つならどんどん使ってほしいと思っています」

「iori×caede」のコラボレーションアイテムは、ドレスやトップス、各種タオル、トートバックのラインナップ。5月下旬発売予定。詳細はこちらのHPに順次掲載予定。


コラージュアートの活動は
長年の趣味が形となって


ボランティア支援、デザイナーと並んで、もうひとつ、花楓さんを知るうえで外すことができないのが、コラージュアーティストとしての一面。古い洋雑誌や絵本などを切り貼りした作品“Wall Speak”を作っている。
「作り始めたのは21歳の頃。こんな世界があったら可愛いなと思って、作っていたんです。ただの趣味でどこかに発表する気もなくて。でも、たまたま作品を見た方に『趣味で終わらせるのはもったいない』と言われたり、先にも出てきた愛媛へ移住した知人から個展をお願いされたり。そんなことが重なって、初めて公に発表することになったんです。それが2016年のこと。その後も、依頼があって何度か展示や販売をするようになりましたが、値段をつけるのはいまだに不思議な気分です」

 
 

古い洋雑誌や絵本を切り貼りしてコラージュした花楓さんの作品。「なんだか妙に丸い形が好きで」と話す円に収められた作品はファンタジックで優しい雰囲気。ちなみに初めて花楓さんの作品を買ってくれたのは、個展を開催した愛媛に当時住んでいたフランス人の彫刻家の方なんだとか。


今ではモデル以外にも積極的に活動をしているが、もともとは、そんなタイプではなかったという。
「いろいろな思いややってみたいことはあるんですが、どう形にしたらいいかわからない部分もあったし、先に結果ばかりを考えて不安で進めないこともあって。その点、夫は長くボランティア活動などを続けていることもあって、運営したり、物事をまとめたり、人と人をつなげるのがとても上手。彼に刺激され、後押しされて、アーティスト活動もボランティアも取り組めるようになりました。お互い得意なことが違うので、役割を理解していて、足りない部分を埋め合っている感じなのかもしれません」

 

そこに笑顔が見たいから―
新たな景色は“好き”な想いが繋いでいく


冒頭にも話してくれた通り、今がいちばんバランスがいいという花楓さんだが、今後はどんな未来を描いているのだろう。
「まだ、頭の中で思い描いている段階ですが、私も夫もお米が好きでお酒も大好きなので、いつか日本酒バーができたらな、なんて話したりしています(笑)。仕事にしてもそれ以外の活動にしても、作り上げていく過程で苦しいことや葛藤があるのは当然だし、仕方がない。けれど、基本は自分が“楽しい”とちゃんと思えること、周囲も自分も“笑顔”になれること。そこだけはブレずにいたいと思っています」

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モデルとして第一線で活躍しながらも、そこに安住せず、自らの情熱で新しい場所をどんどん開拓していく花楓さん。活動の幅を広げることは、大変だし、忙しい。でも、出会いが広がり、喜ぶ人の顔が見られたり、新しいことに挑戦することで、今までの仕事を見つめ直すことができたり。大変さ以上の実りがあることを教えてくれる花楓さんの挑戦は、新しいことを始めたい気持ちを後押ししてくれた気がします。


写真/田中恒太郎(TRAVOLTA)
インタビュー・文/幸山梨奈