本当に電話は必要か


若年層の多くは、電話について一種の迷惑ツールだと考えている。電話は同期通信を相手に「強要」するものであり、電話をかける人は、電話を受ける人の状況などお構いなしに一方的に割り込んでくるというのがその理由である。

こうした指摘は確かにその通りで、電子メールやメッセージングなど、異なる特徴を持った複数のツールが併存している現状を考えると、絶対に電話を使わなければならない場面というのはそれほど多くない。

具体的には、「緊急性が高く相手に割り込んででも連絡する必要がある場合」や「立場の高い人が低い人に一方的に連絡する場合」(あまり良いこととはいえないが、相手が部下や立場の弱い取引先などの場合、電話に出ざるを得ない)、あるいは「話が込み入っていてディスカッションが必要な場合」「文字ではどうしても感情を伝えられない場合」といったところになるだろう。

プライベートな話は別にして、日常的なビジネスシーンにおいて、この条件を満たす場面というのはそれほど多くない。

これに加えて電話は記録が残らないので、大事な要件の場合、電話の最中もしくは切った後にメモを取るという追加作業が必要となる場合がある。日時など重要事項の行き違いを防ぐため、電話の後に確認のメールを送ることもあるだろう。

こうした余分な作業の積み重ねは、実は生産性に大きく影響する。ひとつの作業は短時間でも、これが半年、1年になると大きなコストとして重くのしかかってくる。

将来にわたって電話そのものがなくなることはないだろうが、これまで電話が持っていた役割の大半はすでに消滅したと考えるべきである。先日、電話の役割が決定的に変わったことを示す、驚くべき発表があった。米グーグルがAI(人工知能)を活用し、自分に代わって電話をかけるサービスを開発したのである。

グーグルが開発した新しいAIは、レストランや美容院などに自動的に電話をかけ、電話に出た(人間の)店員と会話して予約を入れるというものである。

英語版デモの段階だが、事前に知らされなければ、会話をしている片方がAIであるとはまったく気付かないレベルであった(デモの途中で、AIが店員に対して「Mm-hmm」(相づちを示すくだけた英語表現)と返して会場からは笑いが起こった)。

「Google Assistant」が実際に理髪店に予約の電話を入れたデモ動画

 

AIが電話応対する時代


グーグルがこのサービスを開発した理由は、予約システムなどのITインフラを整備できない零細飲食店でもITサービスの恩恵を受けられるようにするためである。全員がIT化できるわけではないので、IT化が出来ていない相手に対しては、AIが擬人的に接することで同じ効果を得ようという趣旨である。

この話は、今回のテーマに容易に結び付けて考えることができるだろう。新しいITツールに対応できない人は一定数存在するので、こうした人にはAIが代行して会話をすればよいという流れが成立する。

近い将来、電話しか使わない人は、相手とは直接、やり取りができず、相手が用意したAIとしか話せなく可能性もある。それでも電話派はずっと電話を使い続けるだろうか。筆者はそうは思わない。