毎回、各業界の識者やコラムニスト、世界のニュース記事による、ミモレ世代が知っておきたい記事をお届けする新カテゴリー「社会の今、未来の私」。
前回、大変多くの方に読んでいただいた「クーリエジャポン」の「教育」に関する記事を引き続きお届けします。今回は、子供の脳の発達について。

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幼児教育の投資収益率は7%


現代社会において、幼児教育の重要性は誰もが知るところであり、世界中の親が愛する子供のために最高の教育を与えたいと考えている。

また、ノーベル経済学賞を受賞したシカゴ大学教授のジェームズ・ヘックマンによれば、幼児期に1ドルを投資した場合、その子が成人した際に社会に還元される額は7ドルになるという。つまり7%の収益率があるということになるが、これは米国の株式市場のそれよりはるかに高い数字だ。
経済成長の観点からも、幼児教育は非常に大きな意味を持っているといえる。

だが、いつ、どんな環境で、何を教えればいいのかと悩む親は少なくない。

ブラジル人の映画監督エステラ・ヘネルがUNICEF(国際連合児童基金)などの協力のもと制作した『命の始まり』は、そんな悩み多き子育て世代に幼児教育の正しい在りかたについて、有益な示唆を与えてくれる。

(本作品はiTunesやNetflixからも有料で視聴できます)

自身も3人の子供の母親であるヘネルは、このドキュメンタリーの撮影を通して世界8ヵ国の両親と専門家に取材。生後2~3年の幼児が日常のなかでどのように学びの機会を得て、またそれを親はどうサポートすべきかに焦点を当てた。


「詰め込み」より「自由」が大事


一般的に、「幼児の頭のなかは白紙のようなものなので、この時期により多くの知識を与えることが大切だ」と考える親は多いだろう。

カリフォルニア大学の心理学者で、長年子供の発達について研究を続けてきたアリソン・ゴップニックも、「幼児は世界でもっとも優秀な科学者にして発明家」と評し、幼児期の学習能力の高さを強調する。

 

だが、米誌「ニューズウィーク」で「世界でもっとも優れた10の学校」の1つに選ばれたことのあるイタリアのレッジョ・エミリアの教育者キアラ・スパジアリは、「幼児の頭は決して白紙ではなく、無限に知識を詰め込む入れ物ではない」と主張。
レッジョ・エミリア式が重要視するのは、「自由」なのだという。

決める自由や動く自由を与えられることによって、子供は好きなものを使い、脳をフルに活用しながら知識を深めることができる。

おもちゃのブロックで何か新しい形を作るかもしれないし、キッチンで料理の真似事をはじめるかもしれない。
ジェラ研究所の所長で精神分析医でもあるヴェラ・イアコネリアによれば、このときにiPadやコンピュータといった特別なツールを使う必要も、専門的知識や技術を教える必要もない。
既製の玩具を使って遊ぶより、定規とペンを使って飛行機を作るほうがずっとこどもの脳と想像力を刺激するからだ。大人の役目は、ただ子供たちが自由に遊び学べるよう、彼らの安全を確保することだけだという。

もう一つ幼児の発達に必要なのは、「愛情」だ。子供の脳を発達させるシナプス結合は0~3歳の間に特に活発で、脳の約80%がこの時期に完成すると言われている。ハーバード大学児童発達研究所の所長ジャック・ションコフによると、このシナプス結合をもっとも活性化させるのが、大人との愛情ある交流なのだという。

幼児の笑顔や声に大人が反応し、幼児がそれに対してさらに別の反応をする──両者の間にこのような相互作用が生まれると、シナプス結合が活性化し、子供の脳の発達を促すのだ。

 


最適な遊び場は?


では、遊び場はどんなところがいいのか?

レッジョ・エミリアの教育者シモナ・ボリアリは、不規則で変化に飛んだ「自然」こそが子供にもっとも適した遊び場だと話す。

自然の美しさや多様性から、幼児は自然主義や生物学的な視点でだけでなく、倫理観や美的感覚も身に付けることができる。また画一的でない環境で体を動かすことによって、自分の身体の可能性にも気づくことができるのだ。

ボストン小児病院のチャールズ・ネルソンは、幼児期の体験が脳や行動の発達に与える影響を長年、研究してきた。その彼によると、幼児期に周囲から手厚いサポートを受けられた子供ほど、健康で生産的な大人になる可能性が高いという。

「幼児期の発育は、家の骨組みを造ることに似ています。頑丈な骨組みがなければ家が建たないように、幼児期に豊かな愛情とサポートを受けずに育った子供は将来、充実した人生を送ることが難しくなるのです」

幼児教育がその後の人生を決める──映画『いのちのはじまり』は、決して取り戻すことのできない幼児期に子供に真摯に向き合う重要性を教えてくれる。

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特集:クーリエ・ジャポン式「最強の子育て」

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