資産運用には好都合


筆者はこうした変化は望ましいことだと考えている。

なぜなら資産運用の世界において、自らの都合で期間を区切ってしまうことはマイナスにしかならないからである。

株式市場や債券市場は、私たち個人の人生設計とは無関係に動いている。市場が私たちの都合に合わせて変化することはあり得ないので、私たちが市場に合わせるしか市場とうまく付き合う方法はない。

ベストな運用というのは、市場の動向に合わせて常にポートフォリオを見直し、適度なリスクを取り続けることによってこそ実現できる。

そう考えると「退職金をもらったタイミングで運用を開始する」というのは少々危険な行為であることがお分かりいだだけるだろう。

運用を開始しなければならないタイミングが投資にとって最適なタイミングとは限らないからである。運用経験が乏しかった人が、老後を迎えて急に資産運用に関心を持ち、その結果、適切ではない商品を金融機関から勧められてしまうケースが後を絶たないが、これも時間軸が強制的に区切られてしまうことの弊害といえる。

さらに言えば、投資をする期間は長いほど運用結果が安定しやすいことも実証されている。その点においても定年後に運用に取りかかるよりも、少額でもいいから現役時代から着手することには意味が大きい。

 


いずれにしても老後を迎える前から定常的に運用を続けるということになると、長期的な視点を持つことが重要となってくる。

実際、株式を長期で運用した場合、どの程度のリターンが得られるのだろうか。

過去50年のデータを分析すると、日本株は平均で年間約6%の収益を上げてきたことが分かる。

もちろんバブル期の高値で買ってしまえば下落が何年も続くので、当分の間、収益は大幅なマイナスが続いてしまう。毎年の株価という部分に絞っても、0~25%程度の上下変動が存在するので、下落時に売ってしまえばやはりマイナスである。

ただ、長期間、投資を継続することができれば、こうした変動は徐々に収束していき、最終的には年6%の利回りに近づいていく。この結果は過去のものなのであり、将来には当てはまらないと危惧する人もいるが筆者はそうは思わない。

企業の経営にはリスクが伴うが、そのリスクに見合うリターンとして年数%の利回りはどうしても必要な数字である。

企業活動というものが存続する限り、資金を投じた人に対する一定の収益は保証されると考えるべきだろう(株価の上下変動などリスクを総合的に勘案した場合、どの程度の収益が得られるのかについては次回以降に順次解説していく)。

寿命100年時代においては、収入の一定割合を常に貯蓄し、その一部あるいは大部分を運用に回していくのが標準的なスタイルとなる。

余裕がある時は投資で得られたリターンを再投資し、病気など一時的な支出が多くなった時には、収益から順次取り崩し、必要な支出に充当する。株価は毎年変動するものなので、長期的に運用することで、平均的な利回りを確保していくという考え方である。