米倉涼子さんが、過去に観た映画を紹介するアーカイブ コレクション。
そのときに観た映画から、米倉さんの生き方、価値観が垣間見えます。

Sony Pictures Classics / Photofest / ゼータイメージ

『愛、アムール』の主人公は、パリのアパルトマンで老後を過ごしている音楽家の夫婦。一緒に音楽会に行ったり仲良く朝食を食べたり、穏やかな時間を過ごしているふたりの毎日が、妻の病気によって変わっていきます。

身体が不自由になって意識が朦朧としていく妻と、そんな妻の面倒を献身的に見ようとする夫。自分も若くはないのに妻をお風呂に入れ、リハビリをさせ、ときにはおねしょの始末までする夫の姿を見て、いろいろな思いが胸に浮かんできました。

愛する夫の負担になっていることがもどかしくてひねくれていく妻の気持ち、妻を愛しているからこそヘルパーや娘に頼らずに介護したいという夫の思い、両親を心配して手を差し伸べたいという娘の気持ち。そのすべてがすごくよくわかって、とにかく歯がゆかった。
この夫婦は裕福な人たちだけれど、最後にはそんなことは関係なくて、人生ってやっぱり簡単なものじゃないんだなとしみじみ感じました。

一緒に観た男友達は「自分も同じ境遇になったら老人ホームには入りたくない」と言っていましたが、 私は男の人が面倒を見る側になるのはつらいなと感じたり、逆に自分が介護する側になったら身体が持たないだろうなと想像したり……。どんな局面でも、男性はロマンチストで女性はリアリストなのかもしれないですね。

とてもつらいお話だけれど、恋人同士や夫婦で観ることをおすすめします。観終わったときにお互いの感想を話し合うことで、将来についての考え方が自然と浮かび上がってくると思いますよ。

『愛、アムール』
ジョルジュとアンヌは、満ち足りた老後を送る音楽家の夫婦。しかしアンヌの発病により、ふたりの暮らしは陰を帯びはじめる。ミヒ ャエル・ハネケ監督がカンヌ映画祭パルムドール(最高賞)を受賞した人生の終末の物語。

取材・文/細谷美香
このページは、女性誌「FRaU」(2013年)に掲載された
「エンタメPR会社 オフィス・ヨネクラ」を加筆、修正したものです。