第三者だからこその距離感で
わたしも先生方と同意見で、自分が親の立場だったら即、「やめたいほど辛いんなら、やめていいんだよ」というだろう。「やめようかどうか迷っている」という場合は、「すぐやめるんじゃなくて、少し休んでみたら?」と提案する。
中高6年間部活に打ち込んできたからこそ、生徒たちの悩みがよくわかる。わたしも部内の人間関係で悩んだし、コンクールメンバーに選ばれずやめようと思ったこともあった。
今も昔も、子どもたちの悩みは何も変わらない。わたしは先生方と話す機会も多いので、大会前など「いまやめられると正直困るけど、いやいや続けさせるのも違うと思う」という彼らの気持ちもわかる。また、現在中高生の親と同じ世代で、実際に子どもの部活動を応援する父母たちとも交流があるため、親の気持ちも理解できる。
「部活が憂うつで学校に行きたくない」「先輩にいじめられている」「部活が嫌で死にたい」。そんな思いをしてまで続けるのは、どう考えてもおかしなこと。大人だって、「もう無理」と思ったら会社をやめる。部活だって、「もう無理」と思ったらやめていいのだ。
ただ、わたしは見ず知らずの子たちからの悩み相談だけに、第三者の目線で冷静に回答することができる。
「学校帰りに寄り道したりLINEをしたり、普通の高校生みたいな生活を送りたい」という子には、
「そんなことは卒業後いくらでもできるし、1週間もすれば飽きる。今しかできない部活よりも、寄り道やLINEのほうが魅力的ならやめてもいいけれど、一度部活をやめたら簡単には戻れないですよ」
「辛くてやめたいけれど、わたしがやめると楽器を教える人がいなくなり、迷惑をかけてしまうのでやめられない」という相談には、
「あなたがやめた後、楽器を教えてくれる人は顧問の先生が何とかして探すし、あなたの代わりはいかようにもなるので心配ない。会社でも、誰かがやめたら残った人たちが何とかするものです」といった具合だ。
部活の良さはある。でも部活がすべてではない
自分の子どもから悲痛な思いを相談されたら、親としてはとても悩むだろうし、どう答えるのが正解なのかもわからないかもしれない。でも、いつでも最大の味方でいてあげて、「嫌ならやめていいんだよ」といってあげてほしいし、子どもが限界を感じていたら、「逃げていいんだよ」ということを伝えてあげてほしいのだ。きっと、それだけで子どもの心はものすごく軽くなり、これからの未来に希望が持てると思う。それくらい、わたしのところに来る悩み相談は、「親にいっても聞いてくれない」「やめさせてもらえない」と、限界に達している子があまりにも多いのだ。
大人になってからしみじみと思うが、中高生の生きている世界はとても狭い。学校生活の中だけでも狭いのに、部活となるとさらに狭くなる。卒業した途端に、人間関係もさまざまな価値観も、一気に広がる。
わたし自身、部活は好きだったし、6年間がんばってよかったと心底思う。でも、万人に向くものでは決してない。なぜなら、今思えばちょっと独特の世界だから。でも、これは大人にならないとわからない。懐かしく振り返ることの出来る人もいれば、そうではない人もいる。いろいろな人がいるのだから、当たり前のことだろう。
ちなみに、「部活をやめるとみんなから無視されそうで怖い」という悩みも多いが、実体験からいうと、途中で部活をやめた人たちとは、やめた直後も普通にしゃべっていたし、今でも交流があり、定期的に会う仲だ。
部活で辛い思いをしている子どもたちには、「辛かったら我慢しないでやめていいんだよ」ということと、「だいじょうぶ。これからの人生、いくらでも楽しいことがあるからね」ということを、大人の皆さんからぜひ伝えてあげてほしい。
「人間関係がうまくいかなくて」「やりたいことの両立が難しい!」「思い描いていたのと違う・・・」「親の期待が重い」それぞれのジャンルにわけ、今までに寄せられたお悩み相談から60通近くの相談と答えを、本人が特定できないよう、主旨が変わらない程度にアレンジを加えた上で掲載。部活を辞めた人の意見、続けた人の意見や「部活を続ける? 心理テスト」も掲載。相談をする人される人全員が「部活経験者」ゆえの一冊だ。
梅津 有希子/ライター・編集者・高校野球ブラバン応援研究家・だし愛好家
1976年北海道生まれ。FMラジオ局、IT企業、編集プロダクションなどを経て2005年に独立。食や暮らし、発信力などをテーマに執筆や講演を行う。吹奏楽の応援だけを観に甲子園や地方球場に通う、高校野球ブラバン応援研究家でもある。著書に、ドラマ化もされた『終電ごはん』(幻冬舎)をはじめ、『吾輩は看板猫である』シリーズ(文藝春秋)、『ミセス・シンデレラ 夢を叶える発信力の磨き方』(幻冬舎)、『だし生活、はじめました。』(祥伝社)、『高校野球を100倍楽しむ ブラバン甲子園大研究』(文藝春秋)、『部活やめてもいいですか。』(講談社 青い鳥文庫)などがある。
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