「これから」の社会がどうなっていくのか、100年時代を生き抜く私たちは、どう向き合っていくのか。思考の羅針盤ともなる「教養」を、講談社のウェブメディア 現代ビジネスの記事から毎回ピックアップする連載。
10年後、20年後の日本にいったいどんな未来が待ち受けるかをリアルに描いた『未来の年表』(53万部)、『未来の年表2』(20万部)は、累計73万部を突破しています。それらの著者でジャーナリストの河合雅司さんが『未来の年表2』刊行時に執筆した記事をお届けします。
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高齢者は20代よりも外出している
独り暮らしの高齢者にとって特に困るのは買い物や通院であろう。マイカーが運転できなくなれば公共交通機関に頼ることになるが、それが少ない地域では、思った時間に移動できない。
そんな時に「お助けパーソン」となり、現実的な解決策として期待を集めるのが移動販売や宅配といったサービスだ。企業やNPO法人、社会福祉法人などが手掛け、国や地方自治体が補助金などを出して支援を行っているケースも多い。
ただ、こうした移動販売や宅配も経営実態は火の車のようだ。総務省が2017年に公表した「買物弱者対策に関する実態調査」によれば、2016年時点で継続中の193事業のうち、106は赤字経営だった。「黒字または均衡」と答えた87事業のうち30は補助金などで赤字補填をしており、実質的には7割にあたる136事業が赤字経営なのだ。
中山間地域や過疎化が進んでいる地域を中心に、利用者数や売り上げが伸び悩み、2011年度から2015年度の5年間に31事業が継続を断念し終了していた。
移動販売の拡充が難しいとなれば、結果として「やむにやまれず外出する高齢者」が増える。
こうした高齢者の増加を裏付けるデータがある。国土交通省が全国70都市を対象として概ね5年に1度実施している「全国都市交通特性調査」(2015年)によれば、外出する人の割合は平日が80.9%、休日が59.9%となり、1987年の調査開始以来、最低を記録した。
ただし、これを年齢別に分析してみると、休日に限っては減少傾向の20代を65〜74歳が上回っているのだ。
1日当たりの移動回数で比べるとさらに分かりやすい。平日は20代の1.96回に対し、70代は2.10回だ。休日も20代は1.43回だったが、70代は1.60回であった。
平日の場合、75歳以上は男性が64.7%、女性も51.6%が外出している。65〜74歳(男性79.5%、女性71.8%)は、全世代平均(男性85.2%、女性76.9%)と比べても遜色ない外出率である。休日はむしろ65〜74歳(男性66.2%、女性60.7%)が、全世代平均(男性61.6%、女性58.4%)を上回った。
もちろん、若々しい高齢者が増えてきたこともある。だが、やむにやまれず外出する80代の増加が数字を押し上げている面を見逃してはならない。
75歳以上の外出率の高さを考えれば、80代で外出する人が増えていくのも当然の流れだ。これからは鉄道やバスをめぐる高齢者の移動が大きな課題になる。
エレベーターの前に大行列が
では、そのとき何が起こるのだろうか?
誰しも80代となると、若い頃と同じようにはいかない。判断力は鈍り、機敏さがなくなる。駅の階段を上り下りするだけでも一苦労だ。独りで外出するとなれば、誰かに手助けを求めようとしてもままならない。
高齢夫婦でどちらかが車いすを使用して通院するケースも増えてくる。だが、現在のバリアフリー水準では、とても対応できないだろう。
鉄道各社は法律に基づきバリアフリー化に取り組んできた結果、確かに一昔前に比べればエレベーターやエスカレーターの設置は大きく進んだ。
「鉄軌道駅における段差解消への対応状況について」(国土交通省)によれば、1日当たりの平均利用者数が5000人以上の大きな2892駅のうち、97.8%にあたる2828駅で段差を解消する措置がとられている。3000人以上の駅まで含めても93.7%だ(2017年3月末現在)。
ちなみに、対象を全駅に拡大すると59.2%まで落ち込む。駅の構造上スペース確保が難しいところもあるだろう。
問題は設置率ではなく、各駅のエレベーターの数と稼働能力である。エレベーターのある駅でも、上下線のホームに1基ずつというのが実情だ。地上と改札階とを結ぶエレベーターも1基というところが多い。
車いすに対応しているエレベーターでも、1基に乗り込める車いすはせいぜい1台である。仮に10人の使用者が1ヵ所に集中したならば、エレベーター前に長い列ができる。
可動式のリフト(昇降機)しかない駅などもっと悲惨だ。駅員の力を借りるため、設定してから実際に移動を完了するまでにさらに時間がかかる。階段や段差の移動に思った以上に時間がかかり、大事な予定に間に合わなかったというトラブルも出てこよう。
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