「何を買いに来たのかしら?」


一方で、「高齢化した高齢者」の外出機会が増えれば、街なかでもいろいろな変化が生じる。デパートやスーパーマーケットといった売り場の光景も変わるだろう。

若い世代の顧客ならば、自分の欲しい商品を求めて売り場に出向き、色や柄、サイズ、さわり心地といったところの確認だけをして購入する。買い物の目的が明確なお客さんが大多数で、商品説明をスムーズに行えるとなれば、経営者は、最少人数の店員を配置することで総人件費を抑制しようとするだろう。

 

だが、判断力が衰えた「高齢化した高齢者」の買い物客はそうはいかない。店員から商品説明を受けても1回ではなかなか理解できない。支払いに戸惑い、さらに時間がかかったりもする。それどころか、「私は何を買いに来たのかしら?」と買うべき品物を忘れてしまい、予定していなかった物だけ買って帰ってしまう人さえいる。

自治体の窓口業務も、金融機関のATMなどもそうだ。市役所の窓口に各種手続きのために訪れた高齢者が、身分証明書の提示を求められ、慌てて鞄をひっくり返すように探すとか、駅前に1台しか設置されていないATMを長時間にわたり〝占拠〟しているといった光景を時折、見かけるようになった。

その間、窓口やATMの前には長蛇の列ができる。忙しい業務の合間を縫って役所を訪れたビジネスパーソンが、次の仕事の時間を気にしつつイライラしながら待っている場面も日常茶飯事となるかもしれない。

売り場ではコストを抑制するため、ギリギリの店員数でしのぐ小売店は少なくない。高齢者が増えるからといって、店員を増やせるところばかりではないだろう。役所の窓口で待たされる時間が長くなれば、その人の会社の労働生産性が落ちることにもなる。

多くの80代が街を闊歩していることを前提として対応策を考え、社会やビジネスの有り様を変えていくことが求められている。

80代が人口の多数派に…これからの日本社会で起きること_img015万部突破!
『未来の年表2』より一部抜粋

現代ビジネスの元記事はコチラ>>

関連記事:老後の再就職こそ、男女「不平等」になってしまうワケ

河合 雅司/ジャーナリスト・高知大学客員教授
1963年、名古屋市生まれ。ジャーナリスト、高知大学客員教授(専門は人口政策、社会保障政策)。中央大学卒業。内閣官房有識者会議委員、厚労省検討会委員、農水省第三者委員会委員、拓殖大学客員教授など歴任。2014年、「ファイザー医学記事賞」大賞を受賞。主な著作に『日本の少子化 百年の迷走』(新潮社)、『未来の年表』、『未来の年表2』(講談社現代新書)、『未来の呪縛』(中公新書ラクレ)などがある。