嵐が猛威を振るった9月30日の夜、家を揺らすほどの風にどきどきしながら
時おり夫の胸に顔をうずめながら眠る。
目覚ましの音に“もう少しお待ち下さい”と懇願しながらも7時の電車に乗らなければならない朝、ぼんやりした頭はそのままでシャワーを浴びて目を覚ますと10月1日、結婚8年目を迎え私はニューヨークへ飛ぶ。
「結婚記念日には毎年、ここでディナーをしようよ。」
式から丸一年たった2012年の10月10日の富士屋ホテル。
日常の喧騒を忘れさせてくれる別館 菊華荘。旧御用邸の歴史ある佇まいに、秋の味覚をふたりで楽しみながらそう話した。
翌年からその約束は一年ごとにまた来年、また来年と、果たされない気の長い約束になったまま私たちは忙しくしている。
そして2018年秋、空港のラウンジで妻は夫に、ショートメールでカードを送れなかったことを詫びて感謝の気持ちを綴ると、少しだけセンチメンタルにこの7年の月日の記憶を辿り始める。
結婚式なんてしなくていいわ。
仕事ばかりをがむしゃらに楽しんできた39歳の私は、人に思われるほどその部分に関してはロマンティックさを持ち合わせていなかったが、(意外にも)そのロマンティックさを持ち合わせた44歳で同じく初婚の夫は式を挙げようと言った。
気が進まないまま、式への準備は始まり、(私は半ば仕事気分で)ドレスの打ち合わせに出かけていくと、シンプルで、アイボリーほどの白さに留めたツーピースを着るくらいの心持ちでいた私の前に、美しいフランスのレースが並べられた。ドレスにもシニカルだった私の心は大きく揺れ動いてあっという間に美しいレースの魔法にかかった。
人には毎日多様な”気付き”があるけれど、このときの私は意外と自分は柔軟
(単純)なのだと知る。
ドレスは一着。お色直しなんて…と言っていたはずの私はデザイナーのKEITA MARUYAMA氏と打ち合わせしているうちに欲張りになって2着目のドレスのデザインまで話し始めてしまう。
テーマは20年代のフラッパードレス。
幸せの青い鳥の刺繍を施した淡いブルーのため息のでるような、フェミニンで煌びやかなドレス。
花嫁になる3日前、私は雲隠れを強行した。
これがマリッジブルー??携帯もPCもすべてOFF、耳馴染みのあるそのフレーズが私にもやってきたのだ。
私の正義と彼の思う正義に齟齬が生じたのである。
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