① 暮らしが変わった


暮らしが変わる、自分の日常になかったものが増えていく、そしてその変化は楽しめる。どちらかと言えば変化を好むタイプではあるけれど、時には困難も…… 結婚後、彼の暮らす湘南に嫁いだ私、(著書「Lady in Red」 P170参照)1日が24時間じゃ足りない!30時間は欲しいなんて言っていたのに、通勤に往復3時間という時間が費やされ、眠っている以外仕事をしていたような私の1日が21時間になってしまった。それからしばらく泣いたりもしながらその暮らしが続くと、自分の人生に初めて土日という休日ができた。夫の休みに寄り添うように私も週末の仕事はセーブした。結婚してちょうど40歳になり、それは少し休憩しましょうと、長らく走り続けた身体を癒すようなことでもあったように思う。
海から2分のマンション暮らしでは、夜に吹く生温い潮の匂いを運んでくる南風が好きだった。乗り馴れない自転車に乗る姿を笑われながら近所の焼き鳥屋さんへ、オレンジ色に染まる夕暮れに出かけて行くのも好きだった。
そして、結婚して3年目、山の上にある見晴らしの良い一軒家に引越しをした。そこは『天空の城』...とちょっぴり大袈裟な名前がつけられていたのも、空気の澄んだ冬は毎日、夏は夕暮れに沈み行く太陽が空を赤く染めると、影のように色を濃くした富士山が輪郭をはっきりと映し出し、なんとも美しい光景が広がるからだ。その家は、私たちの予算を超えた物件だったけど、その絶景にふたりは乗り越える意志を固めて、やりくりしてなんとかふたりのものになり、マイロは広くて自由な庭ではしゃいだ。

 

手に入れた家は、私たちにたくさんの喧嘩をさせた。そして仲直りもさせてお互いを深く受け入れさせもした。細かく話せば一冊の本になるほど沢山の思いがぐちゃぐちゃと取り巻いた。それでも、朝起きれば、鳥が鳴いて、ウグイスは妙な歌を歌う、エアコンのない暮し、少し動けば大汗をかいて、“これが自然よ、夏は汗をかかなきゃ!”と大きなスイカを半分に切って、大きなその半分のスイカをスプーンですくって欲張りに頬張った。それはきっと人生で一番美味しいと感じたスイカだった。
去年はシャワーの湯が運試しのように5回に一回、出た!とよろこぶと、シャンプーが終わる前に水に変わったりする夏を過ごした。一軒家の面倒なところです。大家さんは自分たち。シャワーがでない?ガス屋さん?電気屋さん?このお風呂はどこのもの?メーカーに問い合わせるのか?どこだろうね〜と呑気にいつまでも直そうとしない夫に腹を立てながらも私も調べたり電話をかけたりはせずに夫のアクションを待った。いい大人になって水でシャワーを浴びるようなことは思いもよらぬことではあったけど、不思議とそれはひと夏の楽しい思い出になった。そう、“”夏の思い出”で終わって良かった....笑” 秋の虫が鳴き始めた頃に「もうシャワー出るからね、直したから」と少し得意気な調子、シャワーの蛇口をひねると当たり外れなく流れ出る温かい湯にじんわり。もう秋だね。温かいなぁ…ありがとう。と夫を抱きしめた。(笑)

ひとりじゃない暮らしは、面倒でもあり、刺激的でもある。それは考え方と気分次第!ひとりでもわりと楽しんで暮らせてしまう可愛げのない女は、自分を不愉快にする暮らしなんていらないのにと何度も考えたりもした。でもここにいる。少しずつ生意気な女が可愛らしくなれる場所にいる。

 
  • 1
  • 2