『十年 Ten Years Japan』
監督:早川千絵、木下雄介、津野愛、藤村明世、石川慶
出演:杉咲花、國村隼、太賀、川口覚、池脇千鶴
配給:フリーストーン 11月3日よりテアトル新宿ほか全国順次公開
© 2018 “Ten Years Japan” Film Partners


今年、カンヌ国際映画祭で大賞のパルムドールを受賞し、国内でも様々な議論を呼んだ『万引き家族』。その是枝裕和監督がエグゼクティブプロデューサーをつとめた短編オムニバス映画『十年 Ten Years Japan』が公開されます。10年後の香港を舞台に5人の新鋭監督が社会的な題材を果敢に選んで大ヒットを記録した『十年』を出発点に、日本、タイ、台湾、それぞれの国でも制作されることになった国際的プロジェクトです。

 

75歳以上の高齢者に安楽死を奨励する新制度のもと、“死のプラン”の勧誘をしながら葛藤する公務員を描く『PLAN75』。AIによる道徳教育を行っている小学校を舞台にした『いたずら同盟』。亡き母の“デジタル遺産”を目にしたことにより、揺れ動く女子高生を描く『DATA』。大気汚染を心配する母と地下の街で育ち、地上に憧れを抱く少女が主人公の『その空気は見えない』。そして『美しい国』では徴兵制のキャンペーン広告を担当しているサラリーマンと大御所デザイナーとのやりとりが描かれています。

 

高齢化社会、AIによる支配、徴兵制といった、平和な日常生活を送っていても、のどに刺さった小骨のように心に引っかかっているキーワードを、十年というまさに近未来を舞台にして描き出した5本。『愚行録』で注目を集めた石川慶をはじめ、次世代の日本映画を担う新しい才能にチャンスを与えるという意味でも、大きな意義のあるプロジェクトになっています。

 

どの作品も上から目線の描写はなく、最後にはっきりとした答えを提示するわけでもない。あくまでも生活者の視点で描かれ、「あなたは、どう思いますか?」と観客ひとりひとりにポンッと問いを投げかけてくるような余韻の残るスタイル。アジアのなかでも政治的な話題についてカジュアルに話すことが少ないといわれる日本人にとって、この作品がひとつのきっかけになるかもしれません。日本をありえたかもしれない“美しい国”にするのは、誰なのか。大御所のデザイナーを演じた木野花さんの「落とさないようにね、バトン」というセリフが、いつまでも耳に残ります。

 

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