脳科学コメンテイター・感性アナリストの黒川伊保子さんの新刊『妻のトリセツ』。脳科学の立場から女性脳の仕組みを前提に妻の不機嫌や怒りの理由を解説し、夫側からの対策をまとめた“妻の取扱説明書”ですが、妻にとっても参考になる知識がたくさん詰まっています。「夫が家事をしない!」という悩みを抱えている人は多いはず。手伝ったとしても、せいぜい「ゴミ捨て」や「風呂洗い」くらい。実は同じ家事を例にとっても、女性脳と男性脳とでは全く異なるとらえ方をしているというのです。
家事には「名前のある家事」とは別に
「名もなき家事」がある
「平成28年社会生活基本調査 生活時間に関する結果」(総務省統計局)の、6歳未満の子どもを持つ夫婦のデータによると、夫の1日の家事関連の平均時間が83分(家事や育児時間などの合計)であるのに対し、妻は454分。共働きで子どもがいる夫婦に至っては、夫は46分、妻は294分とのこと。妻側の離婚理由には、この不公平感が大きく関わっているそうですが、それも納得の数字です。
現代では、洗濯は洗濯機、掃除はお掃除ロボット、食器洗いは食洗機が担ってくれることが多く、昔に比べると、家事負担が軽減されているようにも見えます。でも、料理、洗濯、掃除、窓拭き、ゴミ捨てといった「名前のある家事」以外に、「名もなき家事」があるということに、男性は全く気づいていません。
たとえばゴミ捨てを例に取ると、仕事は玄関からゴミ捨て場まで運ぶだけではありません。分別種類ごとの収集日を確認して、ゴミを分別。各部屋にあるゴミ箱から分別済みのゴミを袋に入れたら、ゴミ袋の口をしっかり結んでゴミ捨て場に持っていきます。帰ってきたら、新しいゴミ袋をゴミ箱にセットするという作業も残っています。ところが夫が担うのは、「ゴミ捨て場に持っていく」部分だけ。ゴミ捨てという一連の家事のほんの一部に過ぎず、その他はほとんど妻がやっているのが現状なのです。これでは妻の家事負担の軽減になっていないにも関わらず、夫に「ゴミ捨てはやっている」と主張され、思わずイラっとしてしまうのです。
しかし、残念なことに男性は目の前の観察力が低く、「名もなき家事」が本当に見えておらず、それを妻が一手に引き受けているということに気づいていないという悲劇が! こうして妻は、「名もなき家事」にじわじわと追い詰められていくのです。
行動文脈の短い男性は、
「このついでに、あれもこれもやる」が苦手
どうして女性ばかりが「名もなき家事」に気づき、男性は全く見えていないのでしょうか。ここにも、男性脳と女性脳の違いが現れています。男性脳に、女性脳が日頃行っているレベルの家事を要求すると、女性脳の約3倍ものストレスがかかるそうです。その理由は、男性脳は、女性脳に比べて行動文脈が短いことにあります。例えば、女性脳であれば、「トイレに立ったついでに、ここのものをあちらに持って行き、そして、トイレに行って、帰りにこれをああして、こうして」と比較的長い行動文脈を常時紡ぎ続けることが可能です。一方、男性脳は、周囲の空間認知を行い、危険を察知することに神経信号を使うことを得意としているため、女性と同じことができません。
例えば、キッチンにコップを持っていくなら、それしかできないのが男。妻から「コレをやるならついでに、アレとソレもやって」と言われると、低い能力を駆使せざるを得ないため、男性には非常に大きなストレスがかかります。
とはいえ、妻側からすれば、「男性脳がそういう仕組みだったら、仕方がないわね」で済む話ではありません。『妻のトリセツ』では、「名もなき家事」に太刀打ちできないのであれば、妻の怒りが大爆発するのを防ぐために、とにかくねぎらうこと、とアドバイスしていますが、「ねぎらいなんていらないから、自分から動いてほしい」というのが本音のはず。
だったら、「名もなき家事」の存在を夫に気づかせることも一つの方法ではないでしょうか? 毎朝コーヒーが飲めるのは、コーヒー豆を切らさずに買っているから。部屋の中に植物があり、ほっとできるのは、きちんと水やりをしているから。こうしたことをきちんと示して説明すれば、夫の行動に結びつくかもしれません。いちいち教えること自体、面倒なことかもしれませんが、家事の負担軽減に向けた小さな一歩としてはじめてみるのもありではないでしょうか?
<著書紹介>
『妻のトリセツ』
黒川 伊保子 著 800円(税別) 講談社
理不尽な妻との上手な付き合い方とは。
女性脳の仕組みを知って戦略を立てよう!
妻が怖いという夫が増えている。ひとこと言えば10倍返し。ついでに10年前のことまで蒸し返す。いつも不機嫌で、理由もなく突然怒り出す。人格を否定するような言葉をぶつけてくる。夫は怒りの弾丸に撃たれつづけ、抗う気さえ失ってしまう。
夫からすれば甚だ危険で、理不尽な妻の怒りだが、実はこれ、夫とのきずなを求める気持ちの強さゆえなのである(俄には信じ難いが)。本書は、脳科学の立場から女性脳の仕組みを前提に妻の不機嫌や怒りの理由を解説し、夫側からの対策をまとめた、妻の取扱説明書である。
「妻が怖い」「妻の顔色ばかりうかがってしまう」「妻から逃げたい」という世の夫たちが、家庭に平穏を取り戻すために必読の一冊でもある。
脳科学専門家 黒川 伊保子
長野県生まれ。奈良女子大学理学部物理学科を卒業。富士通ソーシアルサイエンスラボラトリで人工知能の研究に従事したのち、株式会社感性リサーチを設立。世界初の語感分析法を開発し、多くの商品名やマーケティング戦略を手がけ大ヒットに導く。また、人間の思考や行動をユーモラスに語る筆致によりベストセラーも多く、特に『英雄の書』『女は覚悟を決めなさい』『母脳』(ともにポプラ社)の「英雄三部作」は、脳科学をもとに人生を切り開く方法をわかりやすく説くことで多くの世代から大反響を得ている。近著に『前向きに生きるなんてばかばかしい』(マガジンハウス)、『英雄の書』を文体から変え、加筆修正した『英雄の書 すべての失敗は脳を成長させる』(ポプラ新書)。
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