私は自分がヘタレな分、自分の信じる生き方を貫いている人を「すごいなあ、応援くらいはしたいなあ」と日々思っているのですが、その一人が映画監督の塚本晋也さんです。今月公開の『斬、』はその監督の最新作。幕末のある農村で出会った二人の剣豪と、彼らが引き起こした騒動を描いています。

監督、脚本、撮影、編集、製作:塚本晋也 出演:池松壮亮、蒼井優、中村達也、前田隆成、塚本晋也
2018 年/日本/80 分/アメリカンビスタ/5.1ch/カラー  製作:海獣シアター/配給:新日本映画社
(C)SHINYA TSUKAMOTO/KAIJYU THEATER
★公式サイト:zan-movie.com


ミモレでは、その主演俳優・池松壮亮さんにインタビューし(11月22日掲載予定)、その顔の衝撃的な小ささにぶっとんだのですが、それ以上に印象的だったのは「昼ご飯のお弁当を食べて、これ塚本さんのお金で買ってるんだなと思った」という言葉でした。

塚本晋也監督

だって監督って、映画の撮影現場で言えば「大親分」みたいな感じで、難しい顔でモニターチェックしながら、「右向け!」と一声吠えれば俳優からスタッフから全員が一斉に右を向き、ピリピリし始めると助監督たちがチビりそうになる!みたいな存在です。

そうであるはずの監督が、みんなの弁当まで自分の金で買っている――というのも、塚本さんは大手映画会社とか大企業からの出資で映画を撮るのではなく、いまでも自主映画みたいな形で映画を撮っている方だからなんですね。世界的な知名度のある日本人監督で、そんな人はまず他にはいません。それはもちろん“撮りたいものを撮るため”なのですが、私は“撮りたくないものを撮らないため”なんじゃないかなあ、とも感じます。

じゃあその“撮りたくないもの”は何か。最新作の『斬、』を見ると、少しそれが分かるかもしれません。舞台は幕末で、主人公は若き剣豪。武士たるもの、今の時代こそ剣を使い、世の中のために散ろうと鍛錬するのですが、いざとなるとどうしても人と斬り合うことができません。

 


さてそんな折、シリアで拘束されていたフリージャーナリストの安田純平さんが解放され帰国しました。外国人記者クラブでの会見を思わず全編見てしまったのですが、いやもうほんと、大変な経験です。相手と話したり交渉したり、身体を完全に拘束されていたわけじゃないとか言ってる人もいるようですが、いつ殺されるか分からない状況が3年続くって、そりゃもう尋常じゃありません。いつも通りの「自己責任論」バッシングに対して、「国民の皆さんに迷惑とご心配をおかけして」というご本人の謝罪を気の毒だなあと思いつつ、ずっと彼を心配して奔走していたわけでもなく、トランプ大統領ほどに彼の行動を迷惑だとも思っていない私は、とにかく無事に帰国できてよかったなあと思ったわけですが――不謹慎を承知でちょっと想像したのは、万が一彼が死んでしまっていたら、ということです。

もしそうだったら。世の中はきっと「命懸けだったのだ」と彼を許したんじゃないかしら。もしひどい形で殺害されていたら、「勇敢なジャーナリスト」とか「英雄」とか呼んだんじゃないかしら――以前に拘束され殺害された別のジャーナリストのように。「自作自演」とか「プロ人質」とか非難されている安田さんと、彼との違いは、生き延びたか、死んでしまったかだけのことのように思えます。

囚われた同胞が無事に帰国できたこと、家族が悲しまずにすんだこと、貴重な経験と情報の多くを持ち帰れたこと、それだけにおいても生きて帰る方がずっといいはずなのに、「命を懸け、散ること」のほうが立派であるかのようにとらえる精神性には、私は何か奇妙な違和感を覚えます。


話を『斬、』に戻して。この映画は、塚本監督の前作『野火』と直結する作品となっています。原作は大岡昇平の同名小説で、主人公は戦争がイヤでイヤでたまらないまま戦場に参加させられている男。社会が戦争にイケイケどんどんになる中、「命を懸け、散ること」が美であるかのようなプロパガンダに、うんざりしています。「現代はそんな時代と似てきてる」と語る塚本監督が、『野火』と『斬、』で撮りたかったこと、撮りたくなかったこと、是非ご覧いただけたらなあと思います。

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