学生時代に貧乏旅行で行った海外の安宿でのこと。
私が泊まった部屋は知らない外国人とシェアするドミトリー式の部屋で、同室は中国人とイタリア人と(アメリカ人じゃなくて)ニューヨーカー。ある夜、彼女たちとお酒を飲んでいると、誰からともなく、自分の国がどんだけすごいかというお国自慢が始まりました。まず威張り始めたのはニューヨーカー「ウチは都市と郊外しかないアーバンな町だからさ」。んなこというたら東京は都市が団子状態ですけども、と言いそうになった私を尻目に、イタリア人がバリ本気で畳みかけます「うちはローマ帝国だから」。すると今度は中国人が負けじとばかりに胸を張り「うちには4000年の歴史と万里の長城あるから」。当時、バブル真っ盛りのイケイケ日本を生きていた私は、冗談としか思えないやりとりに心の中で盛大に吹いたのですが、彼らは徹頭徹尾めちゃめちゃ本気。てか、みんな貧乏旅行じゃん、とは口が裂けても言えませんでした。

イタリアの高級ブランド『ドルチェ&ガッバーナ』が中国で大炎上したというニュースを聞いて、その時のことをふと思い出しました。炎上のきっかけとなった「箸でピザを食べる動画」について、「箸の文化をバカにしてる!」とか言ってる人がいるようですが、映画ライターの私からすれば、あれはそんな遠回しなものとは思えません。中国(というか東アジア全土)で使われている箸で、イタリアのソウルフード、ピザとパスタを――おそらくわざと箸遣いの下手なモデルを使って――「うまく食べられない~!」と苦戦させながら食べさせる。これ暗に「中国人がイタリアの『ドルチェ&ガッバーナ』を着こなせるはずがない」と、笑いめかして言っているんじゃないかしら。

中国・北京のショッピングモール内の店舗。写真:Imaginechina/アフロ


自分たちがこれからがっぽり稼ごうという市場を相手に、「まあそれでも欲しいなら売ってやってもいいけどね」的にアプローチするその在り方に、私は思いました。うわあ、出たな、ローマ帝国!と。これまではそういうやり方でも、例えば概して鷹揚な日本人なんかは「ぜひ!」と答えちゃっていたのかもしれませんが、中国は「いやいやお断りなんで、うち万里の長城あるんで」と答えたわけです。そして2日後には中国市場からほぼ締め出し――というSNS時代ならではの驚愕の流れがどんな感じだったのか、詳細はまとめツイートを見てもらうとして。

ともあれ、この事件は「差別」に対するいろんなことを思い起こさせました。一番大きなところで言えば、プライドや自尊心と差別の関係です。人は高いプライドゆえに自分以外の人を下に見たりしますが、そうした差別を感知できるのも、差別によって傷つけられるプライドがあればこそ。最初からプライドを持たない人は、たとえ自分が差別されていたとしても気づくことができず――もしかしたら自分だけは差別されていないという幻想も抱きやすく――だからこそ他者のプライドに対しても無頓着に、「差別差別って、大騒ぎするほどのこと?」なんて言ったりするところがあるかもしれません。

まあ結局のところ、この事件はブランド側の――いかにもカンペを見てる風な目の泳ぎ方の――謝罪動画で一応の決着。もっとも獰猛でかつ現代的な「金を持ってる方が強い」的な世界に落ち着いたわけですが、さてさて、そこまで金にモノを言わせられる状況にない日本人。プライドを持つべきか、いっそ持っていないほうが楽なのか。持つとしたらどこに持ち、どうやって保っていくべきか。ま、個人的には、「ドルチェ&ガッバーナ」が買えなくても全然いいけども。

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