ちなみに、トークの殿堂入りといえるのが、5位〈かまいたち〉のボケの山内。優勝の望みが消えた瞬間、「気持ちを切り替えて、今から、2017年のキングオブコントチャンピオンとしてみさせてもらいます」と飄々とコメントして爆笑をさらった彼からは、王者の風格が漂っていた。かまいたちは2018年春に上京してきたばかり。2019年春の番組改変で、レギュラーが増えることを切に願う。
逆に、M-1で優勝しようがしまいが、超売れっ子になることが確約されている…というか、すでに売れっ子のコンビが〈和牛〉と〈ミキ〉。どちらも単独ライブのチケットが瞬殺で売り切れる人気者だ。和牛は毎回優勝候補の大本命で、本人たちも優勝への執念と努力を隠さない。今回も完璧な漫才を披露したが、結果は3大会連続の2位。本人たちは番組直後の反省会で、「たぶん生まれ変わらないと優勝できない」(水田)「今世では無理やなあ」(川西)と自嘲してしっかり笑いに変えていたが、M-1チャンピオンという肩書がなくても、和牛への尊敬と人気は変わらないだろう。ただし、元料理人の水田を料理企画で無駄遣いしすぎなのはいかがなものか。もっとゴリゴリのお笑い番組で輝く和牛が見たい。兄弟コンビのミキは、弟・亜生が兄・昴生をイジる、トムとジェリーのようなじゃれあいが特徴だ。関西を拠点に、劇場での漫才に重きを置いて活動しており、東京進出する気はまったくないと公言するが、このまま関西にとどまらせてはもらえないだろう。
第14回大会全体の質を上げた影の功労者は、初めて審査員席に座ったナイツの塙だろう。塙は「優勝もしてないですし、審査していいのかなと迷ったんですけど、やっぱりテレビに出たかったんで」と挨拶でボケたように、優勝経験はない。それでもナイツは売れ続け、漫才を進化させ続け、審査員席に召喚された。いつもは毒を交えたボケが特徴の塙が、笑いの手数を稼ぐために一度たりともファイナリストをいじらなかったのは、壇上にいる芸人たちの気持ちをあの審査員席で誰よりもわかっていたからだろう。また、漫才の構造を的確に突いた寸評も明快。ファイナリストへの尊敬と漫才への愛情が伝わる塙の品格のある姿勢は、M-1を通過するすべての芸人にとって、素晴らしい手本となったと思う。
最後に、決勝に進出できなかったある芸人について。敗者復活戦の会場からの生中継で、審査員の松本人志とオール巨人に「まっちゃん待っててね~」「巨人ちゃんも待っててね~」と両手を振った〈三四郎〉の小宮は、2019年も引き続き、バラエティ番組で売れ続けることでしょう。
ライター 須永 貴子
2019年の年女。群馬で生まれ育ち、大学進学を機に上京。いくつかの職を転々とした後にライターとなり、俳優、アイドル、芸人、スタッフなどへのインタビューや作品レビューなどを執筆して早20年。近年はホラーやミステリー、サスペンスを偏愛する傾向にあり。
文筆家 長谷川 町蔵
1968年生まれ。東京都町田市出身。アメリカの映画や音楽の紹介、小説執筆まで色々やっているライター。著書に『サ・ン・ト・ランド サウンドトラックで観る映画』(洋泉社)、『聴くシネマ×観るロック』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、共著に『ヤング・アダルトU.S.A.』(DU BOOKS)、『文化系のためのヒップホップ入門1&2』(アルテスパブリッシング)など。
ライター 横川 良明
1983年生まれ。大阪府出身。テレビドラマから映画、演劇までエンタメに関するインタビュー、コラムを幅広く手がける。人生で最も強く影響を受けた作品は、テレビドラマ『未成年』。
メディアジャーナリスト 長谷川 朋子
1975年生まれ。国内外のドラマ、バラエティー、ドキュメンタリー番組制作事情を解説する記事多数執筆。カンヌのテレビ見本市に年2回10年ほど足しげく通いつつ、ふだんは猫と娘とひっそり暮らしてます。
ライター 須永 貴子
2019年の年女。群馬で生まれ育ち、大学進学を機に上京。いくつかの職を転々とした後にライターとなり、俳優、アイドル、芸人、スタッフなどへのインタビューや作品レビューなどを執筆して早20年。近年はホラーやミステリー、サスペンスを偏愛する傾向にあり。
ライター 西澤 千央
1976年生まれ。文春オンライン、Quick Japan、日刊サイゾーなどで執筆。ベイスターズとビールとねこがすき。
ライター・編集者 小泉なつみ
1983年生まれ、東京都出身。TV番組制作会社、映画系出版社を経てフリーランス。好きな言葉は「タイムセール」「生(ビール)」。18年に大腸がん発見&共存中。
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映画ライター 細谷 美香
1972年生まれ。情報誌の編集者を経て、フリーライターに。『Marisol』(集英社)『大人のおしゃれ手帖』(宝島社)をはじめとする女性誌や毎日新聞などを中心に、映画紹介やインタビューを担当しています。