私のクローゼットには、いつまでも出番待ちをしている一枚のワンピースがある。
首の詰まりと繊細な生地が気に入り、色の選択肢は普段あまり選ばないブラックしかなかったけれど、どこかで役立つかもと手に入れた長袖のロングドレス。
「これ、今夜のパーティーにどう思う?」
いつも頭の片隅で気にはなっていて、少し特別な夜のお出かけがある時、今日こそ合うかも!と着てみては、そこに母がいると意見を求めてみる。
「うーん、悪くないけどパッとしない。あなたらしさが見当たらないし、暗いところで背中も腕も見えずに真っ黒じゃちょっとね」
そうそう、そうよね。私もなんとなくそんな気がしてた。
特段ファッションの仕事をしたことがあるわけでもない、だけど揺るがない持論を持つ母の意見はいつも冷静で的を射ている。
そろそろ年末の忘年会やちょっとしたクリスマスパーティー、誰もがいつもより少し特別感をもたせたスタイルをしたい夜が増えるこの時期。
あたりを見渡せば、まるでドレスコードでもあったのかと思うほど、黒一色ということも多い。
その姿は、かつてリトルブラックドレスという言葉が日本の雑誌を席巻した影響というより、「この色なら悪目立ちしない」または、「何を着ていけば分からないけれどとりあえずこの色なら間違いない」というどちらにしても消極的な理由によって、まるで黒で密やかに全身を隠しているようにさえ見えてしまう。
そんな時、私は声を大にして叫びたくなる。
せっかく楽しいこのシーズン、もっともっと自分を楽しまなくちゃ!
決して黒が悪いというわけじゃない。
むしろ、素敵に着られたらこんなにもシックにキマるドレスカラーはないと思う。
ただ、若さを武器にできるわけでも、深いシワや真っ白なヘアをアクセサリーにできるわけでもないこの世代。
欧米の方の髪や肌の色なら映えるきりりと締まるブラックも、黒髪に覆われた私たちが全身すっぽりと身を包むと、肌を潔く出さなければ顔だけが突出してしまう。
雰囲気ある暗めの照明のもとならなおさら。”黒衣”状態にだってなりかねない。
だからと言って、大人の肌見せブラックドレスは、クチュール級に計算高く作られたパーフェクトなカッティングでない限りチープに見えがちで、透け感のある黒は妖艶過ぎて見える危険も大いにはらんでいるから、プロ級の着こなし力が必要…。
そう、実は黒を素敵に華やがせるってとっても難解なことなのだ。
もしこれから華やぎ服を新調する予定があるなら、黒しか目に入れない、ではなく、まずは他の色にも目を向けてみて。
ボルドー、フォレストグリーン、キラキラせず鈍く光るシルバー…
無難という理由ではない、自分がしっくりくる色を見つけられたなら、そこには、久々に感じる高揚感から始まる新たな世界が待っている。
最低限の品さえ守れば、夜の宴にカラーのせいで悪目立ちなんてことはほとんどないから心配も不要。
そして、もしあなたが社交的なタイプではなくとも、きっとこう声をかけられたら嬉しいはず。
「その色、とっても素敵ね」
さて、例えば今急に、大人なジャズクラブに誘われたら、素敵なクリスマスディナーに行くことになったら、盛大なホームパーティーのホストにおしゃれして来てねと言われたら…貴女はどんな装いを選びますか?
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