“女性をはじめとする多様な人々が活躍する豊かな社会”を目指すイベント「MASHING UP」が、11月29日、30日の2日間にわたり開催されました。Bravery(勇気)& Empathy(共感)をテーマに行われた多彩なセッションから厳選して、その内容をレポートします。
テーマは『消える仕事、残る仕事』。Business Insider Japanの浜田敬子氏をモデレーターに、ヤフージャパン/ウェイウェイの伊藤羊一氏、VISITS Technologiesの松本勝氏、CAMPFIREの山中ファンキー直子氏を迎え、AIが日々の生活に浸透しつつある中で私たちの仕事はどう変わっていくのか、また変わりゆく世界に向けてのマインドセットについて考えました。
効率化によってできた時間をどう使うか
私たちの仕事は近い将来、AIによって奪われてしまうのか? これは識者の間でも意見の分かれるところですが、まさにこの分野の専門である松本さんは「AIの出現は、すべての人にとってプラスになるはず」といいます。
「単に、やる仕事が変わるだけだと思いますね。AIは、何百万通りもの中から最も適したやり方を探すといった“作業の効率化”が得意。なので毎日のルーティンワークのような、最初にゴールが決められていて、そこに達するまでのやり方は自由といった仕事では人間に勝ち目はありません。ここで大事なのは、効率化によって生まれた時間で何をやるか。逆に“人の感情”や“共感”といった数値化できないものは苦手なので、こういった分野では人が活躍できる場がもっと広がっていくはずです」(松本さん)
これには伊藤さんも同意。
「自動車が登場する前は馬車を操縦する御者がいたし、自動改札ができるまでは人が切符を切っていたように、技術の進化によって消えた仕事なんてこれまでにもたくさんある。人間にしかできないこともきっと想像以上にあるはずで、例えば挨拶にしても『こんにちは』なら分かるだろうけど、僕と松本さんがすれ違う時なんか『うぃーす』くらいじゃない? こんなのAIには絶対判別できないと思うんですよ(笑)。大切なのは“健全に不安を感じつつ、これまでとは違う世界に行こう”ということじゃないでしょうか」(伊藤さん)
“クリエイティブな仕事”は恐くない!
また、こういった話題で必ず出てくるのが“クリエイティブ”という言葉。「ディレクターやデザイナーに代表されるクリエイティブな職種って、何だかとても特殊に聞こえませんか」と浜田さんもいうように、求められた時に果たして自分ができるだろうか、と不安に思う人は多いはず。これについて山本さんは「職種で考えるべきではない」といいます。
「例えば企画書一枚作るのでも、“もっとこうしたらいいんじゃないか”“こうしたらもっと見やすいかな”と工夫することでクリエイティビティは生まれていくはず。あるポジションに就かなければクリエイティブな仕事はできない、なんてことはないんですよ。自分で考えるのは自由ですから。会社や事業の中で自分は何のためにこの仕事をやっているのか、やりたいことを実現するにはどうすればいいか、ということにしっかり向き合うことだと思います」(山本さん)
また松本さんからは、クリエイティブという言葉が日本で使われる場合に、含まれる要素が多すぎる、との意見が。
「アートとは、自分が表現したいものを表に出すこと。対してデザインとは、それを見た人が意図したとおりに感じてくれるよう、ある目的に向かって作っていくこと。仕事で必要なのはあくまでデザインのための思考で、これは学問・教育として確立しているので、やる気を持ってトレーニングを積めば、誰でもある程度は身につけることができるんです。自分にはセンスがない、と思っている人も大丈夫。スポーツと同じで、センスだけでやり方を知らない人より、センスはなくてもきちんとやり方を教わった人のほうが、結果的には上を行くはずですよ」(松本さん)
世の中には、まだ名前のない仕事がたくさんある
過剰に恐れる必要はないと頭では理解できても、急激な時代の変化に不安を感じてしまうのも事実。なくなる仕事もあるなかで、私たちはどういった心構えでいるべきなのでしょうか。
「求人情報から仕事を選ぶことに以前から違和感を感じていて。世の中には表に出ない仕事もたくさんあるし、実際、私のコミュニティマネージャーという仕事だって10年前にはなかったものですし。決められた中から選ぶのではなく、“これならできるかも”“この問題はどうしたら解決できるのか”といったところから考えるほうが自分本来の力を生かせるはず。そこで誰かが“それやってよ”といってくれたら、それはもう立派な仕事ですから。あとは、できることが一つだけだと不安になるので、オプションをいくつか持つことも大切ですね」(山本さん)
既存の枠に囚われない仕事のやり方といえば、伊藤さんはその先駆者ともいえる存在。リーダーシップ開発、起業サポート、プレゼン指導といったこれまでなかった仕事を顕在化させてきた経緯には、“来た仕事は絶対に断らない”という固い信念があったのだとか。
「どれも“これいける!”と思って始めたわけではなくて、来た仕事を断らずに全部受けていたらいつの間にか仕事になっていたんです。先日も僕がまったく知らない分野での講演依頼が来て、最初は人違いかと思ったけど、結局受けた(笑)。2ヵ月必死で勉強したおかげで今は得意分野になりましたよ。こういうやり方だと、ふと、これでいいのか? と自問することもあるけど、そういう時こそ、自分はどういう人生を送りたいのか、自分の幸せとは何かを考えるようにしています。過去を振り返ればその先には必ず、今大事にしたい思いや未来の姿があるはずですから。また自分の幸せについてだけでなく、自分は社会とどう関わっていくのか、どんな社会を作りたいかを考えることも重要ですね」(伊藤さん)
自分の仕事を奪われるかもしれない恐怖の存在も、きちんと相手を知れば取るべき対策もおのずと見えてくるはず。そして時代が大きく変わる時期だからこそ、思考や価値観も積極的に変えていくことが重要なのかもしれませんね!
写真/塩谷哲平
文/山崎恵
構成/柳田啓輔
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