“女性をはじめとする多様な人々が活躍する豊かな社会”を目指すイベント「MASHING UP」が、11月29日、30日の2日間にわたり開催されました。Bravery(勇気)& Empathy(共感)をテーマに行われた多彩なセッションから厳選、その内容をレポートします。

 

今回のテーマは『ゼロハラまでの道』。Visa Worldwide Japanの安渕聖司氏、Good Aging Yellsの松中権氏、BuzzFeed Japanの小林明子氏、さらにエッセイストの小島慶子氏という布陣で、日々の生活に潜むさまざまなハラスメントとの向き合い方、一人ひとりにできることについて話し合いました。
 

みんなの疑問“一体どこからがハラスメント?”


世界的なムーブメントとなったMeToo運動や、スポーツ界から相次いで噴出したパワハラ問題などで、2018年はさまざまなハラスメントが問題として大きく取り上げられました。しかしそうした報道に触れるたび考えるのは“どこからがハラスメントで、どこまでは許されるのか”ということ。これについては松中さんが説明してくれました。

 

「ハラスメントを定義すると『属性などに対する言動によって、相手を不快にすること、尊厳を傷つけること』。よく“そういうつもりはなかった”という言い訳がされますが、意識的かどうかははっきりいって関係ありません。された側も、これはハラスメントなのか? と考えるのではなく、どんな形であれ嫌な思いをしたのであれば声を上げるべきですね」(松中さん)

つまり、そもそも線引きするべきではないということ。グローバル企業としてハラスメント問題に取り組むVisaの安渕さんも、ハラスメントに例外はないことを強調します。

「ハラスメントは性別や年齢、妊娠しているかどうかといった属性によるものが多いのですが、否応なくこれらはすべて否定されるべき。また自分は言ってもいい、という思い込みは、マジョリティや力のある側こそやりがちです。こうした力の差があるところにハラスメントが生まれると、“仕事を失うかもしれない”といった恐怖から声に出せず、被害にあった人をさらに追いつめてしまいます」(安渕さん)
 

悪意なき黙認が、言い出せない空気を生む


海外ではすでに多くの企業がハラスメント撲滅に向けて具体的な取り組みを始めていますが、それに比べると日本はまだまだ後進国。その原因には、なんでも根性論で片付けたり、被害を受けた側までが“我慢するのも仕事のうち”と考えたりしてしまう風潮があるとか。

 

「これは私自身、財務省の福田事務次官によるセクハラ問題が出た時に痛感しました。私も同じようなハラスメントを受けていたにもかかわらず“これくらい我慢できなきゃネタは取れない”と黙っていた。安渕さんのお話を聞いていても、メディアはまだ全然その域に達していないと思いますね。今は報じる側として、まずは自分たちがちゃんとしないと、という気持ちでいます」(小林さん)

 

「“自分は大丈夫”と思わずに、間違った刷り込みがないか一人ひとりが想像してみることが大事ですよね。またメディアについては、拡散による功罪を強く感じます。実は私も以前、ラジオ番組で共演者の身体的特徴をいじってしまったことが。本人も笑っていましたが、本心はどれだけ傷ついていたかと思うと……。悪気なく、むしろよかれと思ってやってしまった加害者の自分、それを見て笑っていた傍観者の自分、何気ない言葉で傷ついた被害者の自分と、この三者を誰もが自分の中に持っているんじゃないでしょうか」(小島さん)
 

その“言いたいこと”は、わざわざ言うべきことなのか


まずは、自分にも無意識のハラスメントはあると認めること。そうした意識改革の次は、ハラスメントを生まないための環境づくりへ。被害にあってしまった場合でも声を上げやすい環境とは、どのように作られるのでしょうか。

「LGBTの人たちの間にはアライという言葉があって、これは“非当事者による理解や支援”といった意味。ハラスメントに対してその場で『やめろ』と声を上げるのはなかなか難しいけれど、例えば違う話題に持っていったり、『さっき辛かったよね』と声をかけることで救われる人もいる。そういったちょっとしたアクションが、ハラスメントの回避にも繋がるんじゃないかと思っています」(松中さん)

「会社における仕組みづくりでいうと、被害者からの報告は匿名OK、左遷や評価ダウンといった報復行為を禁止する、といったことも大切ですね。こういうことを言うとよく、これじゃ言いたいことも言えなくなる、ポリコレだ、なんて声があがるけれど、その“言いたいこと”とはそんなに言わなければいけないことなのか? というところにまず立ち戻ってみてほしい。また、ハラスメントしてしまった人を犯人扱いして追い詰めないこと。そうした排除は新たなハラスメントに繋がります。“お前はダメな奴だ”と烙印を押すのではなく、改善を促すことが大切です」(安渕さん)

 


今は、「こんなのはおかしい!」という怒りのフェーズから、「ハラスメントのない社会の方がいいよね」といった、よりポジティブなフェーズへ移行している時期、とも。今回のセッションでは、困難に思われがちなハラスメント撲滅への糸口が見つけられたのではないでしょうか。
またネトハラ、SOGIハラ(性的指向や性自認に対するハラスメント)といった、最近生まれたさまざまなハラスメントについては、ハラスメントのない社会を考えるためのプラットフォーム『WeToo』でより詳しく解説されているので、こちらもぜひ参考に!


写真/塩谷哲平
文/山崎恵
構成/柳田啓輔