04年、NHK大河ドラマ、三谷幸喜脚本の「新選組!」もグループ男子もの。香取慎吾、山本耕史、藤原竜也らが悲劇の幕末青春群像を演じました。ここで堺雅人の登場です。主人公たちと敵対するクールな山南役が人気で、05年の『テレビブロス』「好きな男・嫌いな男」特集で堂々、好きな男の1位に。2位は「怪奇大家族」(テレビ東京)というシュールなドラマに出演していた高橋一生でした。
そんな「グループ男子もの」の申し子のような存在は小栗旬です。本格派の蜷川舞台に出演するようになって、日本で数少ないマントの似合う男子として、演技もイケてる男子として、すこし箔が付いた彼は、05年、大人気少女漫画のドラマ化、4人のイケメンが出てくる「花より男子」(TBS)に出演、ヒロインを優しく見守る花沢類役で大ブレイクします。このドラマの空前の大ヒットにより、「イケメン」が出ると売れるという認識は広まり、07年には「花ざかりの君たちへ〜イケメン♂パラダイス〜」(フジテレビ)とタイトルに「イケメン」がついた、数えるのも大変なくらいたくさんのイケメンの出るドラマが制作されました。これは「花ざかりの君たちへ」という少女漫画が原作ですが、あえて副題に「イケメン」がついたという狙いに狙った企画でした。


そして、07年は映画「クローズZERO」(三池崇史監督)が公開されます。少年ヤンキー漫画までが女性向けに作られて、小栗旬をてっぺんにイケメンが大勢出演して喧嘩するアクション映画が大ヒットします。小栗は「花男」「イケパラ」「蜷川演劇」「クローズ」とあらゆる現場で仲間を増やし、飲んでは演技論を戦わせるという、「イケメン」とひとくくりにされるけど、俺たちはそれでは終わらないぜ、というような意志を見せて、意外と硬派な“演劇男子(演技論男子)”像を作り出していきます。その仲間(小栗会的なもの)のひとりに山田孝之がいて、彼は「ウォーターボーイズ」や「世界の中心で、愛をさけぶ」「白夜行」などの繊細男子から、脱イケメンになっていき、「ライダー男子」だった綾野剛は「クローズZEROⅡ」で小栗と出会いライダー男子から演劇男子に移行していきます(事務所も小栗と同じところに移籍)。
増殖する若手男子俳優たちの中でサヴァイブするために、技術を身につける、仲間を作って助け合う、脱イケメンを図る……そんなイケメンたちの地道な活動すら、我々女子には魅力的に映るのでした。

前述したイケメンライダーも06年の水嶋ヒロ、07年の佐藤健、08年の瀬戸康史などかなりの逸材が続き、イケメン俳優たちの頑張りが花を咲かせたからか、2008年、「広辞苑」にはじめて「いけ面」が収録されました。狩野英孝の「ラーメン・つけめん・僕イケメン」ネタもこの頃流行りました。
イケメンブームが最高潮となると、「花男」的な少女漫画の男子キャラ方向のイケメンと、「クローズZERO」的な少年漫画の男子キャラ方向のイケメンが枝分かれしていきます。前者は【スイーツ系】に、後者は【エグザイル系】となって、イケメン時代は混沌としていきます。山田孝之が先駆けとなった【脱イケメン】の流れも……。イケメンブームはいつまで続くのでしょうか。次回、【転換期】です。

【平成イケメン30年史】〈’00年〜’09年最盛期〉イケメンという言葉が生まれた時代を彩ったのは誰?_img2
 
 

ライター 木俣 冬
テレビドラマ、映画、演劇などエンタメを中心に取材、執筆。著書に、講談社現代新書『みんなの朝ドラ』をはじめ、『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』ほか。企画、構成した本に、蜷川幸雄『身体的物語論』など。『隣の家族は青く見える』『コンフィデンスマンJP』『僕らは奇跡でできている』などドラマや映画のノベライズも多数手がける。エキレビ!で毎日朝ドラレビューを休まず連載中。

構成/榎本明日香、片岡千晶(編集部)

 

著者一覧
 
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映画ライター 細谷 美香
1972年生まれ。情報誌の編集者を経て、フリーライターに。『Marisol』(集英社)『大人のおしゃれ手帖』(宝島社)をはじめとする女性誌や毎日新聞などを中心に、映画紹介やインタビューを担当しています。

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文筆家 長谷川 町蔵
1968年生まれ。東京都町田市出身。アメリカの映画や音楽の紹介、小説執筆まで色々やっているライター。著書に『サ・ン・ト・ランド サウンドトラックで観る映画』(洋泉社)、『聴くシネマ×観るロック』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、共著に『ヤング・アダルトU.S.A.』(DU BOOKS)、『文化系のためのヒップホップ入門12』(アルテスパブリッシング)など。

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ライター 横川 良明
1983年生まれ。大阪府出身。テレビドラマから映画、演劇までエンタメに関するインタビュー、コラムを幅広く手がける。人生で最も強く影響を受けた作品は、テレビドラマ『未成年』。

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メディアジャーナリスト 長谷川 朋子
1975年生まれ。国内外のドラマ、バラエティー、ドキュメンタリー番組制作事情を解説する記事多数執筆。カンヌのテレビ見本市に年2回10年ほど足しげく通いつつ、ふだんは猫と娘とひっそり暮らしてます。

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ライター 須永 貴子
2019年の年女。群馬で生まれ育ち、大学進学を機に上京。いくつかの職を転々とした後にライターとなり、俳優、アイドル、芸人、スタッフなどへのインタビューや作品レビューなどを執筆して早20年。近年はホラーやミステリー、サスペンスを偏愛する傾向にあり。

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ライター 西澤 千央
1976年生まれ。文春オンライン、Quick Japan、日刊サイゾーなどで執筆。ベイスターズとビールとねこがすき。

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ライター・編集者 小泉なつみ
1983年生まれ、東京都出身。TV番組制作会社、映画系出版社を経てフリーランス。好きな言葉は「タイムセール」「生(ビール)」。

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ライター 木俣 冬
テレビドラマ、映画、演劇などエンタメを中心に取材、執筆。著書に、講談社現代新書『みんなの朝ドラ』をはじめ、『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』ほか。企画、構成した本に、蜷川幸雄『身体的物語論』など。『隣の家族は青く見える』『コンフィデンスマンJP』『僕らは奇跡でできている』などドラマや映画のノベライズも多数手がける。エキレビ!で毎日朝ドラレビューを休まず連載中。