世間はすっかりメリークリスマス。地元のスーパーまで浮かれたイルミネーションで35歳男子シングルのメンタルを削ってきますが、今最も熱い男子シングルと言えばコチラ、全日本フィギュアスケート選手権です。

本命は、宇野昌磨!最も熱い男子シングル・全日本はここに注目_img0
2018年平昌オリンピック・フィギュア男子にて、金メダルの羽生結弦(右)と銀メダルの宇野昌磨(左) 写真:ロイター/アフロ

これまで数々の名ドラマが生まれてきた全日本。今年の優勝の本命は、宇野昌磨選手です。平昌五輪で銀メダルに輝いて以降、世間では「天然キャラ」として親しまれていますが、スケートに対する姿勢は真剣そのもの。そのまっすぐなスケート愛と、人の心を慮る優しさが、ファンの心を掴んでいます。

はっきりと結果を意識して臨んだGPファイナルを2位で終え、本人からも「自分に呆れた」という言葉が出るなど、少し自信を見失っているようにも見える宇野選手。だからこそ、この全日本は笑顔で終えてほしい。

 


今季SP『天国への階段』は艶のあるフラメンコギターが宇野選手にピッタリ。見せ場は中盤の4トウループ+3トウループの後。激しく高まるギターに呼応するようなキャメルスピンに疾走感溢れるスケーティング。そしてフラメンコを意識した振付が一気に観客を惹きつけます。FS『月光』の山場は、終盤の3アクセル+1オイラー+3フリップ、そして3サルコウ+3トウループと連続ジャンプで畳みかけた後。嵐のような鍵盤の音に振付がピタリとハマれば、きっと場内総立ちの『月光』となるはず。

「シルバーコレクター」という揶揄もありますが、同時に個人戦21試合連続表彰台という素晴らしい実力の持ち主である宇野選手。シーズン後半に向けて、自分を信じられる試合になることを願っています。

もうひとりの注目は、驚きの現役復帰を遂げた高橋大輔選手です。4年のブランクはあるものの、その足さばきや身のこなし、傑出した音楽表現は健在。しかも、練習では4回転フリップに取り組むなど、ある意味最も伸びしろが未知数なのは32歳のこの人なのかもしれません。2012年のFS『道化師』をはじめ、いくつもの記憶に残る演技を氷に刻みつけてきた高橋選手の全日本。新たな歴史の更新に期待しています。

そんな高橋選手と競うであろう若手たちにももちろんエールを贈りたいです。昨季、世界選手権5位と躍進した友野一希選手のFS『リバーダンス』は踊り心溢れる友野選手らしいプログラム。音楽に乗せたダンサンブルな演技は、現役日本男子随一。冒頭2度の4回転が決まれば、会場は熱狂で包まれるはず。また、今季苦戦が続いている田中刑事選手の逆襲や、北京五輪へ再スタートを切った山本草太選手のよく伸びるノーブルなスケーティングも必見。ジュニアGPファイナル3位に輝いた“首から下は全部足”こと島田高志郎選手も台風の目となってくれそうです。

そして、残念ながら今大会には出場しない羽生結弦選手についても少しだけ書かせてください。僕は、羽生選手と言うと、最初に浮かぶのはいつもあの“ニースのロミオ”なのです。五輪2連覇を果たし、常に技術を研鑽してきたスーパースターを語るのに、17歳の演技を蒸し返すのは失礼かもしれません。けれど、2012年世界選手権。あの『ロミオとジュリエット』に羽生選手の魅力のすべてがつまっている気がして、今でもつい見返してしまいます。

演技途中で突然の転倒。場内から悲鳴が沸く中、再び立ち上がり迷うことなく跳んだ3アクセル+3トウループ。あの勇気と勝負強さ。そしてコレオステップに入る前の魂の咆哮。もう体力は尽きかけている。なのに目が離せない。あのとき、この人はどんな逆境も力に変えて乗り越える。身を焦がしながら美しく燃える気高き一番星のような人なのだと、テレビの前で涙に震えながら思いました。だから大丈夫。必ずまた羽生選手は帰ってくる。それも一層強くなって。
そんな日を信じながら、今年もすべての選手に敬意を込め、全日本を応援したいと思います。

 

ライター 横川 良明
1983年生まれ。大阪府出身。テレビドラマから映画、演劇までエンタメに関するインタビュー、コラムを幅広く手がける。人生で最も強く影響を受けた作品は、テレビドラマ『未成年』。

構成/榎本明日香、片岡千晶(編集部)

 

著者一覧
 
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映画ライター 細谷 美香
1972年生まれ。情報誌の編集者を経て、フリーライターに。『Marisol』(集英社)『大人のおしゃれ手帖』(宝島社)をはじめとする女性誌や毎日新聞などを中心に、映画紹介やインタビューを担当しています。

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文筆家 長谷川 町蔵
1968年生まれ。東京都町田市出身。アメリカの映画や音楽の紹介、小説執筆まで色々やっているライター。著書に『サ・ン・ト・ランド サウンドトラックで観る映画』(洋泉社)、『聴くシネマ×観るロック』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、共著に『ヤング・アダルトU.S.A.』(DU BOOKS)、『文化系のためのヒップホップ入門12』(アルテスパブリッシング)など。

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ライター 横川 良明
1983年生まれ。大阪府出身。テレビドラマから映画、演劇までエンタメに関するインタビュー、コラムを幅広く手がける。人生で最も強く影響を受けた作品は、テレビドラマ『未成年』。

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メディアジャーナリスト 長谷川 朋子
1975年生まれ。国内外のドラマ、バラエティー、ドキュメンタリー番組制作事情を解説する記事多数執筆。カンヌのテレビ見本市に年2回10年ほど足しげく通いつつ、ふだんは猫と娘とひっそり暮らしてます。

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ライター 須永 貴子
2019年の年女。群馬で生まれ育ち、大学進学を機に上京。いくつかの職を転々とした後にライターとなり、俳優、アイドル、芸人、スタッフなどへのインタビューや作品レビューなどを執筆して早20年。近年はホラーやミステリー、サスペンスを偏愛する傾向にあり。

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ライター 西澤 千央
1976年生まれ。文春オンライン、Quick Japan、日刊サイゾーなどで執筆。ベイスターズとビールとねこがすき。

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ライター・編集者 小泉なつみ
1983年生まれ、東京都出身。TV番組制作会社、映画系出版社を経てフリーランス。好きな言葉は「タイムセール」「生(ビール)」。

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ライター 木俣 冬
テレビドラマ、映画、演劇などエンタメを中心に取材、執筆。著書に、講談社現代新書『みんなの朝ドラ』をはじめ、『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』ほか。企画、構成した本に、蜷川幸雄『身体的物語論』など。『隣の家族は青く見える』『コンフィデンスマンJP』『僕らは奇跡でできている』などドラマや映画のノベライズも多数手がける。エキレビ!で毎日朝ドラレビューを休まず連載中。