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ブームの仕掛け人に聞く、「グレイヘア」という言葉が生まれた意外な事情

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2018年の流行語大賞にノミネートされたこともあり、認知度が一気に高まった「グレイヘア」。「どう染める?」「どう隠す?」から「染めない方法」「白髪を生かしたスタイル」へと移行する女性が増えており、テレビや雑誌でもグレイヘアの特集が組まれるほど。
「私も40代後半になってから白髪が目立ち始め、いつ染めるのを止めようかタイミングを見計らっていたんです」と語るのは“グレイヘア本”の仕掛け人、依田邦代さん。グレイヘアブームの背景、さらにご自身も実践されているケア法についてお話をうかがいました。

 

パリマダムを取材して気づいた「染めない選択」もアリ

 

最初のきっかけは3年前、年齢を重ねても自分らしさを忘れないパリマダムを撮りおろした『Madame Chic Paris Snap ―大人のシックはパリにある』(主婦の友社)をつくったこと。この本はシリーズ化し、累計13万部を超えるヒットになりました。
それらの写真を見ながらある事に気づいたんです。登場している多くの女性たちの髪は白やグレイヘアが多いということ。もちろん、60歳以上の女性に撮影のお願いをしているので白髪の確率が高いのは当たり前なのですが、「もしかして彼女たちは敢えて髪を染めていないのでは?」と。

私自身、白髪とどのように向き合っていこうか考えている最中でしたので、「白髪を染めない」という彼女たちの潔い決断に興味を抱きました。
そして調べてみると「白髪を染めない」というパリマダムが実に多かったのです。ファッションだけでなく、ヘアもメイクも“その年齢に合わせたおしゃれ”として取り入れている姿に共感し、そこで、白髪と上手に付き合い、そのお手本となるヘアスタイル本を出そうと決意したのです。

 

プラチナでもシルバーでもない「グレイ」にこだわった理由


白髪を生かしたヘアスタイル本ですが、実年齢以上の「老け」を感じさせる「白髪」という言葉は使いたくなかったんです。代替えとして「プラチナ」や「シルバー」などの言葉も頭に浮かびましたが、どれもピンときませんでした。

その時に出合ったのが「グレイ」という言葉。黒と白を混ぜたグレイは、私たち日本人のリアルな髪色を表現していました。幸いなことに、グレイヘアという言葉はそれほど使われておらず、私たちが目指すグレイヘアを提案できるチャンスだったのです。

早速、「グレイヘア本を創りたい」と提案したところ、社内の反応は今ひとつ。「白髪にフォーカスして本当に売れるの?」と懐疑的な意見もありました。ですが、私自身がそうだったように、染めない選択肢があることを同世代の女性は知りたいはず。グレイヘア人口の増加を考慮し、「グレイヘア=素敵な白髪」をいう概念を広めたいと思ったんです。そして作ったのが『パリマダム グレイヘア スタイル』や結城アンナさんに登場いただいた『グレイヘアという選択』(ともに主婦の友社)。この本作りの時に私自身も白髪染めの使用を止め、グレイヘアに切り替えました。

『パリマダム グレイヘア スタイル』主婦の友社 撮影:YOLLIKO SAITO
『パリマダム グレイヘア スタイル』主婦の友社 撮影:YOLLIKO SAITO
『グレイヘアという選択』主婦の友社 撮影:宮濱祐美子

 

アンケートで分かった!
白髪染めを止めたい女性が8割も

 

本を出すタイミングで、グレイヘアについてのネットアンケート調査も行ったのですが、この結果が大変興味深かったですね。60%の女性が「一生白髪染めをする」と答えた一方で、「白髪染めの使用をいつか止めたい」と考えている女性は80%もいました。中には「真っ白になったら白髪染めを止めるつもり」と答える声もあったりして、白髪に対する想いは想像していた以上に複雑でした。

白髪のイメージを聞いてみると、ほとんどが後ろ向き(笑)。実年齢よりも「老けて見える」という意見が多く、白髪が伸びてくると「ケアできないくらい忙しいの?」「疲れている?」なんて哀れみを誘ってしまったり……。確かに、髪の生え際からチラリと白髪が見えると落ち込みますよね。

また、染めてもすぐに白髪が生えるため、それがまたストレスになる。私も白髪を染めていた時は、3週間に1度のペースでヘアサロンに通っていました。ある日、1年にかかる費用を換算してみたのですが、

1回の費用を1万円とし、年間で17万円
ヘアサロンで費やす時間を2時間と計算し、年間で約34時間

という結果に。この数字を目の当たりにすると、お金と時間を何かもう少し楽しいことやポジティブなことに使いたい。また、このストレスからも解放されたい、と思うようになったのです。

 

グレイヘアは移行期がカギ
実はケアの仕方はたくさんあった!


グレイヘアは、染めた髪と伸びてきた白髪まじりの髪が混在する移行期を「どのように乗り切るか」「どのように解決するか」がカギですね。皆さん、そこで躊躇される方も多いのではないでしょうか?黒と白のコントラストは時に「汚く」見えてしまいがちですが、グレイヘアを応援してくれるヘアサロンでは、カラーやカットなどプロならではの知識と技術を提案してくれます。ヘアサロンとの信頼関係は大事。見た目もそうですが、メンタル的にも気軽に相談できる人がいるのは心強いですね。この時期を乗りきれば、ゴールは近いですよ(笑)。

実際、白髪染めを止めたら良いことづくしでした。まず、髪質が変わり、スタイリングしやすくなりました。個人差もありますが、私の場合、髪の量も増えたような気がします。
他には、グレイヘアを活かしたファッションやメイクをするように心掛けています。赤リップや大振りのピアスが似合うようになったのもグレイヘアになってから。
顔もたるむし、肌や髪も若い頃に比べ、バランスが変わってくるのはある意味仕方のないこと。ですが、それに抗うことをせず、ありのままを受け入れることもひとつの手段なのかな、と感じています。

依田さんのグレイヘアのケア方法

意識するようになったのは、「髪を育む」こと。
①白髪染めをしていた時は、髪はもちろん、頭皮がピリピリしたり、かゆくなるほど負荷をかけていました。今は約半年に一度ヘッドスパを行い、頭皮ケアをしています。
②シャンプーやコンディショナーはヘアサロンで販売しているアイテムを使用していますが、2回に1回はシャンプーを使用せず、「湯洗い」のみにしています。湯洗いをするようになってから、極度の乾燥を感じなくなりました。
③スタイリング剤は天然の植物成分を配合したBEEWAXのオーガニックコスメを愛用しています。
 


白髪ヘアとグレイヘアは似て非なるもの

 

グレイヘアの捉え方はさまざまですが、あえて言うなら「白髪ヘアとグレイヘアは似て非なるもの」であるということ。「白髪染めをしない分、お金がかからずラクになったのでは?」 と思いがちですが、大間違い! 健康な素髪を育てるためのケアは昔よりも今の方がしていますし、ファッションやビューティでも似合う色が広がったため、より意識するようになりました。

朝起きた時は白髪ヘアですが(笑)、出かけるまでに手をかけてグレイヘアにしていく……「おしゃれのためにしているヘアスタイル」であることを心掛けています。グレイヘアが選択肢のひとつとして大人の女性にもっともっと普及していくといいですね。

依田邦代さん1958年生まれ。エディター。1981年主婦の友社入社。雑誌編集長などを経て、書籍編集者に。シニア女性のライフスタイルにフォーカスした数々のヒット本を手掛ける。

『グレイヘアという選択』
主婦の友社 1500円(税別)

撮影/YOLLIKO SAITO
取材・文/長谷川真弓
構成/片岡千晶(編集部)